誰も語らない、子どもの「性的虐待」の現実 「魂の殺人」が放置される日本
寺町:確かにレイプ被害者は「魂の殺人」という言葉をよく使います。私が代理人を務めた北海道釧路市の事件の被害者は3歳から8歳まで、叔父からレイプを含む性虐待を受けていました。彼女は「殺してくれればよかった。殺してくれたら、警察も動いてくれたのに」と言っていました。
釧路市の事件の壮絶な実態
この事件は昨年秋、札幌高等裁判所で被害者の訴えの大半が認められ、約30年前の事件でしたが、被害認定されました。その後、今年7月上旬に、最高裁判所で被害者の勝訴が確定しました 。
先ほど植田さんは「記憶をなくす」とおっしゃいましたが、性犯罪の被害者に多い症状です。解離性障害とか解離性同一性障害とか言われますが、もうひとり自分がいて斜め上から見ている感覚があるという方や、多重人格になって「自分には十数人の人格がある」という方もおられます。
釧路の事件の被害者は、解離症状で出てきた「もうひとりの自分」と「本当の自分」と、どっちの自分が本当に生きているのかわからない感覚の中で時を過ごしてきました。今、治療過程にあって、今まではつらさや痛みを引き受けてきてくれていた「もうひとりの自分」が統合されてきて、逆に「本来の自分」が全身に激しい痛みを感じるようになってつらいそうです 。
彼女の苦しみを目の当たりにし、人を殺したら罪になるのに、子どもを強姦して、その子が長い年月生きているか死んでいるかわからないような苦しみを背負っても、黙っておけば何らペナルティを受けないという現状は、間違っていると思います。それは、その子の魂を殺すに等しい行為なのですから。
――ひどい犯罪の被害者なのに、被害者が救われない現状は、社会も法制度も問題だらけですね。
植田:被害は認識できて初めて被害になると思います。でも、子どもだと、何が起きているのかわからないことが多いのです。勇気を振り絞って親や友達に話しても、嘘だと思われ信じてもらえなかったり、「汚い」と言われたり 、ますます傷が深まって本当のことが言えなくなる。被害者は口をそろえて「普通の子でいたい」「重いからと引かれたくない」と言うのです。被害を受けた側が周囲に気を使っている。
幸運にも、話を聞いてくれる人を見つけたとしても、被害者本人と支援者の間には溝も大きいのです。たとえば同居の親が加害者であれば、支援者は全力でその子を逃がそうとします。でも、本人は逃げられない。逃げてはいけないと思っていたり、そんな親でも愛していたりする。
逃げたい気持ちとそれでも家族を愛する気持ちの間で迷っているときに「逃げろ」と言われると、逃げたい気持ちを引っ込めて親をかばってしまうことがあるのです。本来、すぐにでも親から引き離すべき虐待なのですが、本人の気持ちが混乱している状況で「逃げろ、逃げろ」と言うことは、時に被害者をよくない方向に追い詰めることになります 。
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