為替変動の震源「円キャリー取引」は終わったのか まだ高い円売り魅力度、金利だけでない円安要因

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冒頭に挙げた海外投資家の関心のように「円キャリー取引の巻き戻し余地」が意識されるのは、2008年以降、それが急激な円高を引き起こした経緯があるからだ。

東深澤氏は、アメリカの利上げで円キャリー取引の魅力度が上がった2004年以降について同様に魅力度指数を分解している。魅力度は減退期に入ると、金利差縮小とボラティリティー拡大の両方から急速に減退したことがわかる。

ただし、当時とは状況が大きく異なる。

2007年に利下げに転じたFRBはリーマンショックを受けて、ゼロ金利まで一気に引き下げた。今回の利上げはそのようなショック対応ではなく、焦点はあくまで景気後退を防いでソフトランディングさせられるかどうか。現在、見込まれている利下げペースも緩やかだ。

加えて、現在IMM通貨先物ポジションが示す投機筋の円買いポジションほど円高が進んでいない背景として「個人投資家の円キャリー取引が依然として残っていることを示唆している」と東深澤氏は推測する。

円安幅を保っている需給要因

もう1つ念頭におくべきは、この間の円安局面が日米金利差だけで進んだわけではないことだ。需給要因も挙げられる。2021年に始まった資源価格の高騰は2022年にロシアがウクライナに侵攻すると拍車がかかり、輸入超過が急速に拡大した。円安が進んだ中で輸出は持ち直さず、貿易収支は悪化した。

東深澤氏は2021年初頭の1ドル=100円台から進んだ円安について、円の需給(経常収支+直接投資の為替取引項目のGDP比率)と金利(日米10年金利差)で分解して推計している。投機要因はどちらでもない部分を指す。

円の需給要因は横ばいののち、足元ではわずかに低下している。資源高が落ち着き、貿易収支が改善してきたことを反映している。

この図からは、財務省が為替介入した2022年秋、2024年の春から夏にかけての時期、投機要因により、円需給・金利要因を超えて円安が進んでいたことも見てとれる。

9月10日(1ドル=142~143円)の段階で円安幅は、ピーク時より縮小したものの、投機要因・金利要因ともまだ大きく、一定の円キャリーポジションが残っていることを示唆する。

今後、十分な金利差がある間は円キャリー取引に一定の魅力度がある。ただし、アメリカの金融政策の先行きについて、雇用統計や物価など経済指標が公表されるたびに市場の観測が揺れ動く局面が続く。金利差縮小や為替の変動が円キャリー取引の巻き戻しを招き、急に円高に振れるリスクをはらんでいる。

黒崎 亜弓 東洋経済 記者

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くろさき あゆみ / Ayumi Kurosaki

特に関心のあるテーマは分配と再分配、貨幣、経済史。趣味は鉄道の旅、本屋や図書館にゆくこと。1978年生まれ。共同通信記者(福岡・佐賀・徳島)、『週刊エコノミスト』編集者、フリーランスを経て2023年に現職。静岡のお茶屋の娘なのに最近はコーヒーばかり。

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