通貨防衛に臨んだ指揮官の習慣と、その目に映る日本とは。
――二十数年間、マーケットを見てきた経験をもとに為替介入を判断したというが、具体的にはどう見てきたのか。
神田 森羅万象、すべてだ。毎朝、コモディティまであらゆるチャートを見ているし、あらゆる統計、あらゆる出来事を可能な限り継続的に追いかけてきた。たとえばアメリカの雇用に関する統計だけでも何種類もあり、それぞれの癖、修正はどうなりそうかまでを理解した上で見なければならない。
たとえば今回、先進国でインフレから利上げに向かうプロセスだと、ある段階ではコモディティ市場が重要だったから、原油価格もWTI、ブレント、ドバイと丁寧に見ていた。私が直接、深く携わってきた石油のプライスキャップ(*ロシア制裁として一定価格以上のロシア産原油・石油製品の海上輸送等サービスを禁止する措置。G7財務大臣間で合意し2022年12月に発効)ももちろん、エネルギー価格に影響がある。
さらにヨーロッパのガス貯蔵や北海の風力発電も関係する。中東情勢でミサイルが撃ち込まれ人質がとられる。そのような動きを新聞記事だけでなく、丁寧に追う。さまざまな内外、官民のリサーチも集めている。
為替チャートは有機的な観察と監視の一部にすぎない。一番大事なのは実体経済であり、社会全体だ。そのパースペクティブが重要であって、そこを捉えていれば相対的に政策対応も成功する可能性が高まる。
ただ、傲慢になってはいけない。マーケットは森羅万象を反映する。わからないことはたくさんあり、思いもかけないことが起きる。断定する人は信用しない。
リーマンショックの教訓
――いつから観察しているのか。
神田 為替市場課の課長補佐を務めた2002年ごろからだ。その後は主計局で仕事をする期間が長かったが、毎朝、続けてきた。
日頃から勉強して知識を持っていれば、社会に有意義な仕事ができるだろうと確信を持ったのは、2006〜2009年にワシントンの世界銀行に赴任していた間に、リーマンショックが起きた時だった。
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