神田前財務官「普通の市場経済が日本を強くする」 【後編】介入では反転できない長期の国力低下

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通貨防衛に臨んだ指揮官の習慣と、その目に映る日本とは。

神田眞人(かんだ・まさと)/1965年生まれ。1987年東京大学法学部卒業、大蔵省(現・財務省)入省。1991年英オックスフォード大学修士。財務省主計局次長、総括審議官や国際局長を経て、2021年7月から財務官。2024年7月末に退任し内閣官房参与、財務省顧問。2016年からOECDコーポレートガバナンス委員会議長を務める。アジア開発銀行総裁を2025年2月に退任する浅川雅嗣氏の後任候補に日本政府から指名された。(撮影:今井康一)

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※本記事は2024年9月19日AM6:00まで無料で全文をご覧いただけます。それ以降は有料会員限定となります。
24年ぶりとなる円買い介入を指揮した神田眞人前財務官。その判断を支えた20年来のマーケットウォッチ、そして長期的な円の趨勢から捉える日本経済の課題とは。インタビュー前編に続いて後編をお届けする。

――二十数年間、マーケットを見てきた経験をもとに為替介入を判断したというが、具体的にはどう見てきたのか。

神田 森羅万象、すべてだ。毎朝、コモディティまであらゆるチャートを見ているし、あらゆる統計、あらゆる出来事を可能な限り継続的に追いかけてきた。たとえばアメリカの雇用に関する統計だけでも何種類もあり、それぞれの癖、修正はどうなりそうかまでを理解した上で見なければならない。

たとえば今回、先進国でインフレから利上げに向かうプロセスだと、ある段階ではコモディティ市場が重要だったから、原油価格もWTI、ブレント、ドバイと丁寧に見ていた。私が直接、深く携わってきた石油のプライスキャップ(*ロシア制裁として一定価格以上のロシア産原油・石油製品の海上輸送等サービスを禁止する措置。G7財務大臣間で合意し2022年12月に発効)ももちろん、エネルギー価格に影響がある。

さらにヨーロッパのガス貯蔵や北海の風力発電も関係する。中東情勢でミサイルが撃ち込まれ人質がとられる。そのような動きを新聞記事だけでなく、丁寧に追う。さまざまな内外、官民のリサーチも集めている。

為替チャートは有機的な観察と監視の一部にすぎない。一番大事なのは実体経済であり、社会全体だ。そのパースペクティブが重要であって、そこを捉えていれば相対的に政策対応も成功する可能性が高まる。

ただ、傲慢になってはいけない。マーケットは森羅万象を反映する。わからないことはたくさんあり、思いもかけないことが起きる。断定する人は信用しない。

リーマンショックの教訓

――いつから観察しているのか。

神田 為替市場課の課長補佐を務めた2002年ごろからだ。その後は主計局で仕事をする期間が長かったが、毎朝、続けてきた。

日頃から勉強して知識を持っていれば、社会に有意義な仕事ができるだろうと確信を持ったのは、2006〜2009年にワシントンの世界銀行に赴任していた間に、リーマンショックが起きた時だった。

正直に言って、あれほど大変なことが起きると事前には予想しきれなかった。

ただ後始末では、ゼーリック総裁と議論し、日本の提案として、世銀グループは世界中の重要な銀行に資本注入を行うと同時に、止まった貿易金融を回復することで危機の波及を食い止めた。一から勉強して大変だったが、間に合って貢献できたという自負はある。

それを機に、よりプロフェッショナルに金融の動きを追いかけるようになった。そのことは為替介入に限らず、財務官の任務に役立った。

アメリカが急速に利上げすると、これまでは新興国の通貨危機や債務危機、そして国際金融危機が起きてきた。それを防ぐために、日本が共同議長の時に提案してASEAN+3(日中韓)財務大臣・中央銀行総裁会議で緊急融資制度を設けた。米シリコンバレーバンク破綻の際は、G7財務大臣・中央銀行総裁会議の議長としてマーケットの沈静化を図った。

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