アメリカ「景気とインフレ」は大統領選でどうなる ハリス氏の経済政策にも強い「ポピュリスト」色

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ハリス氏が将来に照準を合わせるメリットは、トランプ氏の打ち出している経済政策がインフレ押し上げ要因を多々含んでいることが挙げられる。トランプ氏が掲げる厳格な移民政策、減税策、そしてアメリカ連銀に対する金融緩和圧力などはインフレ悪化をもたらしかねない。

一方、ハリス氏が打ち出した価格抑制策などのインフレ対策も仮に施行されれば、中長期的にインフレ圧力を強めかねない。だが、短期的にはインフレを抑え、直近の大統領選での票集めには効果を発揮するかもしれない。

トランプ氏もハリス氏もポピュリスト政策を掲げ、市場への政府の役割の拡大が予想され、在米企業にとっては難しい舵取りとなるであろう。

とはいえ、トランプ氏は1期目、株価を自らの支持率として語ることも多々あり、株価を引き下げるような経済政策を避ける動きも見られた。2期目でも経済への影響に配慮するかもしれない。

経済政策を左右する「人事」「議会」「司法」

一方、ハリス氏も政権発足後、実際に実施する政策は、現行案から抑えられた内容となる可能性が高い。

リベラルなカリフォルニア州選出の上院議員時代、2020年大統領選にも出馬したハリス氏は、急進左派の政策を推進した。だが、同氏はバイデン政権下でより中道に軌道修正した。イデオロギーに固執せず、現実路線をとる「現実的な急進左派」とも称される。

ハリス政権ではマイク・パイル元大統領次席補佐官(国家安全保障担当)やブライアン・ディーズ前国家経済会議委員長などが経済政策の要職に就くことが予想される。いずれもブラックロック社で勤務するなどアメリカ金融界も熟知し、各政策のプラス・マイナスに配慮するであろう。

なお、議会勢力図も影響するが、そもそも法制化が必要な経済政策は議会で阻止または緩和される運命にある。また最高裁によるシェブロン法理の無効化(注)で、法律で明記されていない規制は裁判所が介入し、阻止される可能性が高まっている。

 2024年大統領選でハリス氏の高揚感がいずれ収まる頃、経済が選挙の最大争点となるかもしれない。今後、ハリス氏の経済政策の詳細が明らかになる中、「現実的な急進左派」としてポピュリスト政策を前面に出すものの、経済への悪影響を抑えた現実路線となっているか注目だ。

(注)シェブロン法理は1984年の判決「シェブロン 対 天然資源保護協会(NRDC)」に基づき、曖昧な法律あるいは法律に記載がない場合は、合理的な範囲内で政府機関に判断を任せるとした考え方。2024年6月、同法理が無効化されたことで規制当局などは法律の拡大解釈が容易でなくなった。
渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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