母語・日本語ともに課題のある「ダブルリミテッド」を防ぐ教育に必要な視点 元教員が中心となって活動する「にわとりの会」

子どもが持っている母語のリソースを活用した日本語教育
NPO法人にわとりの会 代表理事の丹羽典子氏が、愛知県で小学校教員になったのは1981年のことだ。その後、1989年に出入国管理及び難民認定法(入管法)が改正されると、県内の工業団地で働く日系人や外国人が急増。丹羽氏が当時勤めていた小牧市の小学校にも、そうした子どもたちが入学してくることも多くなった。同氏はこう振り返る。

NPO法人にわとりの会 代表理事
2010年、教員として働きながら「にわとりの会」を設立。主に6歳から15歳の外国人児童生徒に向けた日本語学習教材やカリキュラムの開発などを行ってきた。2017年に現役を退くと、団体として2020年4月から小牧市教育委員会と協働事業を開始。「外国につながる子どもの学習支援事業」として、外国にルーツのある子どもの学習支援に精力的に取り組んでいる
(写真:丹羽氏提供)
「最初はクラスに1人か2人、日本語がわからない子どもがいる程度でした。もっとも気になっていたのは、すでに高校全入とも言える時代にあって、こうした子どもたちは中学卒業後に進学できない確率が高いことでした。自分たちは親と同じように工場で働くしかないと投げやりになっている子どももいた。何とかしたいと思っても、1人の単なる担任としてできることはない、と半ばあきらめていました」
だが、やがて別の小学校に異動して「外国人担当」を任されたり、また別の小学校に転勤して国際教室を受け持ったりすると、丹羽氏の意識も変わってきた。まず具体的に感じたのは「2年生の壁」だ。
「小2で覚える漢字は小1のときのものに比べてぐっと難しくなり、数も2倍になります。画数も多くなり、子どもたちはよく『線が多くて真っ黒』とか『音読みと訓読みがいっぱいあってわからない』と言っていました。これは、日本人に教えるのとはまた別の方法が必要なのではないか、と考えるようになりました」
しかし丹羽氏が、つまり子どもたちが求めるような本や教材は、日本にも外国にもなかった。漢字の音訓と意味や用例を伝えるためには、自分で教材を作るしかない。その結論に至った同氏が開発したのが、現在の「にわとり式かんじカード」だ。表側には漢字と読み方、例文とイラストが。裏側には北京語と広東語、ポルトガル語、スぺイン語、タガログ語、英語の6言語に訳した例文が書かれている。さらにこれを専用のペンでなぞると音も出る。表側の日本語だけでなく、各言語の例文も読み上げてくれるものだ。