「日銀利上げ」の確率を過小評価すべきではない 「高圧経済」完全脱却を市場に納得させられるか
日本に限らず先進国の中央銀行総裁は為替に言及することを避ける。その理由は、①為替が金融政策の目標でないこと、②為替が金融政策でコントロールできないこと、の2点である。どちらも正しい。
ただ、それは金融政策が為替に影響を与えないことを意味しない。そもそも為替とは2つの通貨の価値の交換であり、通貨の価値に金融政策が影響を与えることは自明だ。為替は金融政策で自在にコントロールできるものではないが、影響を与えるのは間違いない。
その際、重要になるのは金融政策のスタンス、つまり政策の方向性である。この点、「高圧経済」脱却をまだ市場に印象付けられていない日本と、とうの昔に脱却した欧米との違いは鮮明である。その差が円安を招いている。
高圧経済脱却の鮮明化がカギ
筆者は、7月30~31日に予定されている日銀の次回金融政策決定会合でこの高圧経済戦略からの脱却がどの程度鮮明に示されるかに注目している。もし脱却への意思が中途半端であれば、再び円安が進む可能性がある。アメリカが9月に利下げしたとしても、である。
では、高圧経済とは何か。
高圧経済は英語で「High-pressure Economy」と言い、2016年に当時のイエレンFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)議長が講演で言及して以来、一般にも知られるようになった。日本はもちろん、当時は欧米でもインフレ率が目標の2%を下回る状況が続き、金融緩和が長期化していた。
人々の期待インフレ率が2%から下振れし、日本のようなデフレに陥らないようにするために、景気がよくなっても金融緩和を続け、人為的に景気の過熱感を作り出すことで経済の「体温」を上げることを目指す戦略だ。
この高圧経済戦略は欧米ではとっくに終わっている。コロナ禍の強制貯蓄(消費したくてもできなかった所得の積み上げ)が一気に消費に向かい、労働市場は人手不足で賃金が大幅上昇、そこにウクライナ戦争でエネルギー価格が急上昇するショックが加わって、FRBやECB(欧州中央銀行)は急ピッチで利上げを行った。
利上げがどの程度の引き締め効果を生んでいるかをみるには「自然利子率」が物差しとなる。自然利子率とは、景気を過熱もさせず冷やしもしない景気に中立的な実質金利を指す。これを実際の実質金利(名目金利から期待インフレ率を引いたもの)と比較して、実際の実質金利が自然利子率を下回れば緩和的、上回れば引き締め的となる。
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