“常識破り”が生んだ富士ゼロックスの新兵器
冷ややかな意見に対し、山本氏はデータを駆使した理論的な説明を繰り返した。「このクラスのプリンタは一般的に、最大10万枚の印刷で製品寿命が設定されています。ただ、そこまで使う顧客は実質ゼロ。今回の新製品はより少ない数万枚程度を使用限度としますが、これで顧客の使用実態やニーズに十分対応できます」。「感光体ユニットの故障頻度を調べてみると、限りなくゼロに近い数字です」。開発現場にも粘り強く声を掛けた。「できない理由はいらない。どうしたらできるのかを提案してほしい」。
小型化や原価低減のための説明を続け、現場で前向きな提案を引き出していくにつれ、社内のベクトルが徐々に同じ方向を向いていく。出てきたアイデアも、どんどん採用した。モノクロとカラーの機種で基本レイアウトを統一、同時に転写ローラーや紙送りローラーなど35%もの部品を共通化した。組み立て作業の標準化も進めた結果、従来に比べ生産効率は40%もアップした。
そうして昨年11月に完成したA4型の新プリンタは、従来製品比で重量37%減、体積53%減と、狙いどおりの業界最小・最軽量に到達。低価格も実現し、販売価格1万~6万円帯の6機種をそろえた。
「ご苦労さん」。こわもてで部下に厳しい山本社長が、完成品の1号機を見た際には破顔一笑したという。
富士ゼロックスはこの新プリンタを中国市場に投入した。ここはアジア、オセアニアに海外販売網を持つ同社にとって、最重要攻略市場と位置づけられる地域。今や世界最大の事務機市場で、10年の複合機販売数は296万台と日本の4倍超。「中国は少なくとも、これから5年は順調に伸びる。15年には年間590万台を超えるだろう」と、ガートナージャパンの三谷智子アナリストは見る。