欧米経済の病名は大不況でなく大収縮--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

2008年12月に書いたコラムで、私は、痛みを伴うディレバレッジと低成長の期間を短縮する唯一の方法は、数年間4~6%程度の穏やかなインフレを維持することだと論じた。もちろん、インフレは、貯蓄者から債務者に所得を不公正かつ独断的に移転するものだ。だが、こうした所得移転は、より速やかな景気回復に向けた最も直接的なアプローチである。欧州が苦しみながら学んでいるように、所得移転は最後にはどうしたって起きてしまう。

インフレを持ち出すことを、経済学界の異端の一形態だと見なす専門家もいる。しかし、景気後退とは違い「大収縮」は非常にまれな出来事であり、おそらく70年か80年に一度しか起こらない。こうしたときにこそ、中央銀行は平時に蓄えている信用を少し利用すべきだ。

「大不況」という考えに乗り遅れまいと大急ぎする動きが起きたのは、誤った枠組みが大半のアナリストや政策立案者の頭にあったからにほかならない。残念なことに今となっては、そうした人たちがどんなに間違っていたかは明々白々だ。

これまでの誤りを認めることが解決策を見いだすための第一歩だ。歴史を振り返れば、景気後退は、すべてが落ち着いたとき、命名され直すことが多い。「大不況」というラベルをすぐに捨て、「大収縮」という適切な用語に置き換えれば、もう少し速やかに事態が把握できるだろう。金融危機後に行われたひどい予測や誤った政策を取り消すには遅すぎるが、よりよい政策を実行するのに遅すぎることはないのだ。

Kenneth Rogoff
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

(週刊東洋経済2011年9月17日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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