高校統合で「工業科軽視」する普通科教員に不信感、曖昧な教育方針に潜む危険 進学指導に過度な干渉、生徒の可能性潰す恐れ

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ただ、C高校は統合を生かして、工業科の生徒でも普通科の授業を受けられるようにしていた。進路や希望を考慮して、工業科の専門科目も普通科の科目も選択できる。しかし、普通科の教員は一様に、工業科の生徒に普通科の専門科目を選択するよう強要してきたというのだ。

「普通科の教員は進路指導において強い影響力を持っており、工業科の生徒に『進学したいなら普通科の科目を多く取れ』と迫っていたんです。でもC高校の工業科には、A工業高校時代の名残で、工業系私立大学を中心に独自の推薦枠が多くあります。大学進学を希望する生徒はほとんど推薦枠を活用していたので、普通科の科目を受けることに疑問を持つ子もいました」

木村さん自身、高校時代は英語が大の苦手で、代わりに工業科の専門科目で得意を伸ばした経験がある。これまでも自分に似た生徒を多く見てきたため、無理に普通科目を学ばせようとする普通科教員の姿勢には納得がいかなかった。

「5教科の学力が低いまま進学させることに不安があったのでしょうか。真意は今でもわかりません。ただ、『推薦がほしいなら大学入学共通テストを受けろ』とまで言い始めており、さすがに見過ごせませんでした」

高校工業科に推薦枠を用意している大学は、普通科とは異なる専門性を磨いて得意なことに打ち込んできた生徒を評価している。それにもかかわらず、専門的な授業を受ける時間を削って5教科に費やすとなると、工業科の意義が薄れてしまう。

「実際に、『先生。僕はこの学校に来ればもっと、工業について学べると思っていました』と悲しそうに語る生徒もいました」

木村さんのモヤモヤは鬱積していくばかりだったという。

工業科の本質を理解しない校長による学校運営の弊害

普通科教員のふるまいについて、工業科の責任者でもある学科長に何度も疑問を呈していた木村さん。最初こそ学科長も木村さんと同様の不満を抱えており、学科長会議や進学指導委員会で議論を持ちかけていたようだが、その後も方針は曖昧なまま、いつしか意見を言わなくなっていったという。

「普通科の考えに抗えない状況が続き、学科長も無力感から意見を主張しなくなったようです」

学科長にも問題はあるが、何より深刻だったのはC高校としての教育方針が定まらないまま学校運営がなされていたことだろう。その責任はトップにあると木村さんは指摘する。

「校長や副校長、教頭が工業科の教育の本質を理解していなかったんだと思います。必ずしも工業科の先生が工業高校の校長になるわけではありませんから、工業や工業高校がどういうものかを心得ていない人が上に立つことはよくあります。

本来、工業科は、普通科の教科や試験では測れない生徒の可能性を追求する学び場です。普通科の教員は、『大学に進学したとき、普通科から来る学生たちに負けないように』と言いますが、工業系の大学は、工業高校や工業科出身の生徒の特性をよく把握しています。私には、普通科の教員が自分たちの指標がすべてだと勘違いしていたように思えてなりません。そして、それをよしとしていた校長たちトップの責任は大きいです」

普通科教員の影響は進路指導にとどまらず、普段の学習をも浸食していった。

「例えば、工業高校においてレポート提出は締め切り厳守です。われわれ工業科の教員は、生徒に『そもそも期限とは何か』から指導するのです。それが、就職後に直面する『納期』の大切さや、上長への報告などに生きてくるからです。A工業高校でも、部活動の顧問は当然『部活動よりレポート提出が優先』という認識でした。

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