医学部入試の新しい潮流として注目の「MMI」とは

「西日本に第2の富士山を作るプロジェクトチームのリーダーとして、1.意義、2.問題点、3.作る場所、4.資金調達の4点を念頭にアイデアを出してください」

「考えられる地球外生命体の形状を描き、その形状の理由を説明してください」

面接でこんな質問をされたら、ほとんどの人は頭の中が真っ白になり、必死に頭を巡らせるのではないだろうか。これらの質問は、横浜市立大学 医学部医学科の入試の面接で実際に出されたものだ。横浜市立大学では2016年度入試から特別公募制学校推薦型選抜(以下:推薦入試)を行っており、推薦入試の面接方法にMMI(Multiple Mini Interview)を採用している。

MMIとは、異なるテーマで短い個人面接を複数回行うもの。テーマによって面接官も変わり、1人の人物を多角的に評価できるメリットがある。もともとは、海外の医科大学で実施されていたものだ。

出光直樹
出光直樹(いでみつ・なおき)
横浜市立大学アドミッションズセンター 学務准教授
(写真:本人提供)

「カナダの医科大学(大卒者が入学する大学院レベルの教育課程)のメディカルスクールで開発されたMMIは、病棟実習に行く医学生に対して技能や態度が身についているかを確認するOSCEのような、さまざまな実践的な課題が提示される面接室を10か所程度巡るものです。それをそのまま日本の高校生に行うのはハードルが高いため、本学では5つのテーマで約10分ずつ面接するスタイルにアレンジしています」

そう語るのは、横浜市立大学のアドミッションズセンター 学務准教授の出光直樹氏だ。同大がMMIを取り入れることになったきっかけには、同大が推薦入試を始めた理由と社会の変化が大きく関係していた。

変化する“医師に求められる資質”

横浜市の直営だった同大は2005年に法人化したことを機に、カリキュラムや入試改革を行なった。当時の医学部医学科の定員は日本最少の1学年60人。しかし、内閣の閣議決定で緊急医師確保対策が進められ、神奈川県医学部地域枠制度の地域医療枠として20名増員し、定員80名となった。

地域医療枠とは、“卒業後2年間の初期研修後、7年間同大または県内の地域中核病院で専門医研修を受ける”というものだ。2009年には、地域医療枠の増員に加えて修学資金が貸与される神奈川県指定診療科枠も設定され、医学科の定員は90名に増えている。

「それまでは学生同士が助けあって学んでいたのですが、学生数が1.5倍になると学生のコミュニティーも大きくなります。つまずく学生が増えたほか、モラルの低下も問題になり、1種類の入試だけでは限界があるのではないかという意見が出たのです。さらに、2014年に神奈川県と包括連携協定を締結した際、公立高校など県内の幅広い高校から医学科に入学するチャンスを検討すべきということで、推薦入試を導入しました」(出光氏)

では、推薦入試ではなぜMMIを導入したのだろうか。

「海外でMMIが導入されて約10年後の2013年、『医学部入試の課題と改革』という国際シンポジウムで、MMIの入学生は臨床実習のレベルが高いことが話題となりました。当時、推薦入試の導入を検討していた私も含む本学の主要メンバーがこのシンポジウムに参加しており、MMIを取り入れることになったのです」(出光氏)

稲森正彦
稲森正彦(いなもり・まさひこ)
横浜市立大学医学部医学教育学教室 教授
(写真:本人提供)

医師に求められる資質が近年変化していることも、MMI導入の背景にあるようだ。横浜市立大学医学部医学教育学教室 主任教授の稲森正彦氏はこう説明する。

「顕著な変化は2つあります。1つは医学知識の量が膨大に増えたこと。昔のように分厚い本で勉強していては追いつかず、ICTなどを活用しながら効率よく進めるタイプが求められています。もう1つ求められているのが、コミュニケーション能力です。一昔前は、権威ある医者のパターナリズムが好まれる傾向にありましたが、今の医療は患者さんを含めた『チーム医療』です。そのため、医師にはコミュニケーション能力や接遇なども求められており、こうした適性を見るにはMMIが合うと考えました」(稲森氏)

学生に求める資質を5つのテーマにして面接を行う

横浜市立大学のMMIでは、(1)社会性、(2)志望理由、(3)協調性、(4)独創性、(5)倫理性の5つのテーマの面接を受ける。テーマごとに面接室が用意されており、受験生は1室約10分で順番に面接室を回る。

「5つのテーマは『医学を学ぶ学生に持っていてほしい資質は何か』を議論して上がったものです。(1)社会性、(2)志望理由は、事前に記入された志望理由書をもとに質問しますが、(3)協調性以降はガラリと変わります」(出光氏)

下図は、これまで同大の推薦入試のMMIで実際に提示された(3)協調性、(4)独創性、(5)倫理性の状況課題(シナリオ)の例だ。冒頭で紹介した「第2の富士山を作る」「地球外生命体を絵に描いて説明する」は、(4)独創性にあたる。(3)と(5)では実際の臨床現場で起こったことや、起こりうる状況も課題となっている。いずれも正解がない質問ばかりだが、どう評価するのだろうか。

協調性
独創性
倫理性

「各テーマ、担当者がかなり作り込んで評価項目を設定しているため、面接者や受験者によって評価が大きくブレることはありません」(出光氏)

同大の推薦入試は、面接(MMI)1000点、共通テスト1000点の2000点満点で評価されており、MMIの比重は非常に高い。

「一般入試の面接は時間も限られており、いわば『医師に向いていない人』を見つけるもの。成績はよくても倫理的に問題のある受験生を見つけることはできますが、バランスのいい受験生をすくい上げることは難しいです。一方、MMIは本学が求める資質を持つ受験生を見つけることを意識しています。

実際、MMIを通過して入学した学生は2年次からの医学の専門科目の成績がよくて、社会的活動やグループ活動で積極的にリーダーシップをとることが多いのです。それもあり、推薦入試の募集人員を増やしました」(出光氏)

MMIで高評価の学生が入学後に活躍する

そもそもMMIの受験生の傾向は、大学が目指す方向性や求める学生像と重なるようだ。MMIを導入した初年度の願書を見て、すでに手応えを感じたという。

「地域のミッションを担う大学や、開業医の子弟が多い大学など、医大にはそれぞれ特徴があります。その中で本学が目指すのは、臨床医も研究医も育てる多様な環境です。MMIによって、バランスのいいリーダーシップのある学生が入学するようになったことは、本学の方向性にも合うと言えるでしょう。

日本は全体の人口が減少しており、18歳人口だけで見てもどんどん減っています。医療需要は一時的に上がっても、その先は縮小する可能性もあります。今後は、そうした変化への対応も求められるはず。診療に特化した臨床医の育成だけでなく、例えば新たなサービスの創出など、これまでと違った形で社会に貢献する人材が必要になるかもしれません。MMIのテーマに独創性を入れているのはそうした意図もあります。

実際、MMIで高評価を得た学生はすばらしいですよ。医師の資質として協調性、独創性、倫理性が求められるので、バランスのいい受験生を取れるのがMMIのいちばんの魅力ですね」(稲森氏)

また出光氏は、推薦入試自体が、優秀な学生の早期確保につながっていると話す。

「推薦入試が拡大するにつれ、『推薦入試では医学科を受けるが、一般入試では他学科を受ける』という受験生が増えています。つまり、『浪人してまで医大を目指せる環境ではないが、チャンスがあればチャレンジしたい』という学生が増えているのです。実際、とある学生は一般選抜では他の国立大学の教育学部を受験する予定だったそうです。一般入試のみだった時代には出会えなかった学生も、入学してくれるようになりましたね」(出光氏)

対策は「充実した高校生活を送ること」

明確な正解がないMMIだが、受験生は対策できるのだろうか。

「なにしろ出題側のわれわれも正解がわかっていませんから、受験生にとっては対策の取りようがない面接でしょう。相談会などでは『充実した高校生活を送ってください』とお伝えしています。突拍子もないことを真剣に考えてみたり、社会の課題に当事者意識を持ってみたり、人とのぶつかり合いを経験してきた受験生は、MMIでもリアリティを持って答えられているようです。高評価だった合格者は、『面接は面白かった』『夢中で答えた』と話してくれました。MMIを楽しめる好奇心がある子が受験しているのだろうと思います」(出光氏)

MMIを一般入試にも導入する予定はあるのだろうか。そう聞くと、出光氏は首を横に振った。

「国公立大学の一般選抜は日程が決まっているため、面接のための日程を長く確保することができません。MMIは時間がかかるので、一般選抜では難しいでしょう」

対策が難しいMMIだが、受験生にとってはメリットもある。一般的な個人面接と違い、多様なテーマを異なる面接官が担当するため、多角的に評価してもらうことができる。また、グループ面接だと発言のチャンスをうまく掴めない恐れもあるが、MMIは個人面接のため、周りを気にすることなく自分の意見を述べられる。

稲森氏は受験生やその保護者に「怖がらずにどんどんチャレンジしてください。きっと楽しいですよ」とメッセージを送る。医学系大学入試で今後MMIは広がるのか、注目したい。

(文:吉田渓、注記のない写真:koumaru / PIXTA)