日本の常識が通じない小池都知事「学歴詐称疑惑」 黒木亮氏「書類に頼りすぎ。エジプトは違う」

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――日本では、本人が学歴を詐称しても、卒業証明書が提出できなかったり、学校側に問い合わせたりすれば発覚するはず、という感覚です。

不正に発行された卒業証書である「プレゼントの証書(complementary certificates)」が存在するのはエジプト社会の常識です。

カイロ大学の前学長も、教授や職員が個人的に関与して偽の卒業証書が発行されていることを2015年にテレビ番組で証言しています。2017年にはエジプト人ジャーナリスト、ダリア・シェブル氏が偽造卒業証書を売る業者に接触して実態を明らかにしています。

「4年で首席卒業」に抱いた違和感

黒木亮氏
黒木亮(くろき りょう)/作家。1957年北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学大学院(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務。2000年『トップ・レフト』でデビュー。近著に『地球行商人』『マネーモンスター』。英国在住(記者撮影)

――黒木さんはどうして小池氏の学歴問題を調べ始めたのですか。

僕は1984〜1986年にカイロ・アメリカン大学(アラビア語上級コースと大学院中東研究科)に留学しています。アラビア語で学位を取るのはすごく大変だという認識を持っていたので、2016年に都知事に初当選した小池氏が「カイロ大学を首席で卒業した」という点に引っかかりました。カイロ大学の社会学科には一学年150人いますからね。

僕は留学前にアジア・アフリカ語学院で6カ月間アラビア語を学び、小笠原良治・大東文化大学名誉教授に教わりました。小笠原先生はカイロで最初3年間は現地の学校でアラビア語を勉強した後、7年かけてカイロ大学の文学部アラビア語学科を卒業しています。格調高いアラビア語を話す方でした。

アラビア語学科は外国人学生にとってカイロ大学における超難関ですが、小池氏は社会学科とはいえ、「4年で首席卒業」は異様だと思いました。

――カイロで取材を重ねる中で学歴詐称を確信するようになったのですか。

決定的だったのが、卒業論文についての証言です。

小池氏は「社会学科に卒論はなかった」と2020年3月の都議会で答弁したり、『女帝』著者である石井妙子氏の取材に弁護士を通じて回答したりしています。

しかし、小池氏が卒業したと称しているのと同じ1976年に文学部社会学科を卒業したエジプト人の教授に聞くと、「社会学科では全員が卒業論文を書かなければならなかった」と明言し、具体的に彼や級友の卒論の中身を説明してくれました。

――不正が横行しているといっても、カイロ大学の卒業生すべてに当てはまるわけではないのですね。

カイロ大学の進級試験自体は比較的厳格で、金やコネのない学生は留年も当たり前です。僕が会った日本人の卒業生はいずれも留年を経験していました。

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