セブン&アイが北米責任者に「年77億円」払う理由 業績連動で膨張、報酬額は井阪社長の22倍に

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2023年度の北米市場は、コロナ禍で実施されてきた多額の財政出動が順次停止され、そこに高インフレや金融引き締めが加わり、厳しい消費環境が続いた。中でも現地のコンビニの主要顧客である低所得者層への影響は大きい。既存店売上高の伸び率は、当初計画の4.5%増を大きく下回り、わずか1%増にとどまった。

また、SEIの主力商品であるガソリン販売で、1ガロンあたりの粗利額が前年を下回ったことも響いた。結局SEIの売上高はドルベースで前期比10%以上も減少した。

そんな状況下でも、存在感を見せつけたのがデピント氏だった。規模を生かしたメーカーとの原価交渉やオペレーションの見直しに取り組む「コストリーダーシップ委員会」を主導。実現した経費削減額は年間で3億ドル超に達した。その結果、円安の後押しもあり、2023年度は円ベースで4%以上の営業増益を果たした。

2024年度はさらに3.5億ドルのコスト削減を行う計画だ。取引先との交渉継続のほか、スピードウェイ店舗へ日本流「単品管理」を可能にするシステムを導入。逆にスピードウェイが得意とする効率的なガソリン物流の仕組みを、一部セブンーイレブン店舗に拡大するなど、統合シナジーの発現を推し進める。厳しい外部環境で減収(ドルベース)が続く見通しだが、増益(同)に持ち込む計画としている。

株主総会で報酬の議論は一切なし

スピードウェイという大型買収の影響でデピント氏の報酬総額ははね上がった。その一方で、セブン&アイの井阪社長の報酬は3.4億円、セブンーイレブン・ジャパン社長を兼ねる永松文彦取締役は1.7億円にとどまる。

デピント氏の77億円に対し、永松文彦セブンーイレブン・ジャパン社長の報酬は1.7億円。日米で大きな差がついた(撮影:今井康一)

今回の報酬面での「親子間格差」は、日米の役員報酬のあり方の違いだけでは説明がつかない。セブン&アイはコンビニ事業に経営資源を集中させており、その中でも伸びしろの多い海外事業、特に北米の重要性が年々高まっていた。そうした変化を如実に表したものといえるだろう。

本来、取締役の報酬は株主総会の決議によって決めるものだ。セブン&アイでは取締役の報酬総額を年間10億円と定めている。デピント氏のSEIからの報酬は、直接的にセブン&アイ取締役としての報酬ではないため、この総額には含まれない。

5月28日に開催された定時株主総会でも、セブン&アイの取締役の報酬総額が10億円の枠に収まっているため、報酬が議題になることはなかった。株主からの質問も、国内コンビニ事業に集中し、海外事業やそれを担う事業会社のマネジメントに対する質問はゼロだった。

取締役メンバーの実質的な報酬がここまで多額であることを、どこまでの株主が認識していたか。今回のデピント氏の破格の役員報酬は、株主のガバナンスを海外子会社まで及ぼすことの難しさを表しているともいえそうだ。

冨永 望 東洋経済 記者

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とみなが のぞむ / Nozomu Tominaga

小売業界を担当。大学時代はゼミに入らず、地元密着型の居酒屋と食堂のアルバイトに精を出す。好きな物はパクチーと芋焼酎。

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