「ステージ4の膵臓がん」父が沖縄で子に見せた姿 亡くなる13日前に敢行した7日間の大移動

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「介護タクシーを降りたら、“ああ、大丈夫だった”。新幹線に乗り込んだら。“よし、これも大丈夫だった”って一つ一つクリアしていく感じでした」(愛里さん)

そんな愛里さんをはっとさせたのが、新幹線の乗り換えのために降りた鹿児島駅での秀俊さんの一言だった。「ちょっとお土産売り場が見たい」と秀俊さんが言った。

「お父さんは旅を楽しもうとしている。一瞬一瞬を大切な思い出にしようとしているんだということを感じたんです」(愛里さん)

泣きながら3日間で準備をし、当日を迎えた。愛里さんは、どこかで旅全体をミッションのように感じていたのかもしれない。「でも、そうじゃないんだ。これは家族旅行なんだ。楽しんでこそ本当なんだ」。父親の一言がそんな当たり前のことを思い出させてくれた。

「楽しんでこそ家族旅行だ」

そんな思いを新たにしながら、愛里さんは、父たっての希望である沖縄旅行に寄り添った。

フェリーに乗って鹿児島から沖縄へ

2023年2月下旬、新横浜を出てから9時間後、一行は鹿児島県の鹿児島新港に到着した。新幹線が停まる鹿児島中央駅から車で数分の場所である。この短い距離もやはり介護タクシーを使った。

「鹿児島から沖縄の那覇まで、20時間以上の船旅です。途中、奄美大島や沖永良部島などに寄港しながらの旅なので、どうしても時間がかかるんです」(愛里さん)

船内で1泊するので、稲本家は個室を取ってある。ツアーナースの細山看護師については、すぐに駆けつけられる場所の部屋を愛里さんはキープしていた。

秀俊さんたち家族が宿泊したフェリーの客室
秀俊さんたち家族が宿泊したフェリーの客室(提供写真)

「父の車いすを押して、デッキを散策したり、家族みんなでレストランを利用したり。とても楽しい船旅だったのですが、船ってバリアフリーじゃないんですよね。病気のために痩せているけど、父はもともと体格のいい人で、結構体重があるんです。付き添いは全員女性ですし、私は妊娠中だし。車いすごと抱えて段差を乗り越えるのはとても大変」(愛里さん)

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