”復活”日本−−日中韓・造船三国志【中】

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川崎重工の造船子会社=川崎造船・谷口友一社長は、4~5年前、大連の有力造船所を見学した。日本はVLCCを50万時間(マンアワー)で造るが、当時、大連は500万時間かけていた。「やっと300万時間に下げました、と言っているが。納期、品質、アフターサービス。どこまでキャッチアップできるのか」。

にもかかわらず、中国の造船所の“商売”は至って強気だ。船価は市場価格か、せいぜい数%引き。しかも、前受金(頭金)は場合によっては80%要求する。日本の前受金は通常、3回に分け10%ずつ。監督の派遣人数(日本の造船所に発注するときは1人)、支払い条件を勘案すれば、中国船は絶対的に割高となる。

強気には裏の事情がある。中国の舶用機器の国内調達比率は40~50%。海外調達しようにも、中国の造船所は信用度が低く、ディーゼルエンジンはじめ舶用機器は、現金払いでなければ売ってもらえない。その現金を調達するための、切羽詰まった“強気商売”なのである。

だから、今のところ、日本の造船業界は中国をまったく問題にしていない。韓国に対しても、「三つの秘密」が日本を守ってくれる。「VLCCの提示価格は韓国が日本より10~15%高い。この先10年間、コスト競争力で日本が負けることはない」(川崎造船・谷口社長)。

三井造船の岩崎常務は「日本の造船業がやっていけない時代が来るのか」と反問する。王座を譲ったとは言え、日本はしたたかにトップ近辺に食らいついている。「造船業は日本人の特性に合っている。海外進出は両面で考えているが、日本から出ていくことが正解なのかどうか」。

三井造船は年間30億円規模の投資を復活した。千葉工場に1000トンクレーンを導入し、玉野工場に加工工場も新設。そこそこの投資で生産性に磨きをかけつつ、大投資を避けることで来るべき造船不況を軽微にかわす。三井のみならず、これが日本の造船業界の基本戦略である。(【下】に続く)

下は2月3日に配信予定です

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

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うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

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