1つは、文部科学省が旗を振って進める採用試験の早期化の動きだ。といっても、従来よりも1カ月早める程度であり(一次試験が6月という自治体が増える)、民間就職と比べれば内定が出る時期は遅いままなので、効果は薄いのではないか。
しかも、4~6月の試験対策の重要時期は、学校が1年のうち最も忙しい時期とかぶっているので、講師として学校で勤めながら採用試験対策をするのは、いっそう厳しくなるだろう。中途半端な前倒しは「講師泣かせ」なのだ。そうなると、講師になりたいという人はさらに減り、冒頭で述べた教員不足、講師不足がいっそう悪化してしまうマイナス影響のほうが大きいかもしれない。
また、学部3年生から受けられる自治体も出てきた。これは学生から歓迎されているとも聞く。ただし、腕試しに受けて、あとで本命(別の地域の教員採用だったり、民間就職だったり)が受かれば、辞退者が続出する可能性もある。プラス、マイナス両面があるので、今後も注視していく必要があるし、特効薬にはなり得ない。
魅力発信ばかりで大丈夫?
次に考えたいのは、各地の広報、情報発信についてだ。試しにご関心のある方は「〇〇県 教員採用」と検索するか、YouTubeで「先生になろう」などと打ち込んでみてほしい。
美しい景色などの地域のPRとともに、現職の先生たちの声などを紹介しつつ、教員の仕事の魅力、やりがいを強調するリーフレットや動画がたくさん見つかる。各自治体の教育委員会が作ったプロモーションだ。現役の若手の先生らが登場して「先生になってよかったことは何?」「どんなときにやりがいを感じますか?」といった質問に答えていくのが定番だ。
これらが無駄だとは言わないが、かなり一面的ではないだろうか。少々押し付けがましいと感じる人もいるかもしれない。
参考になる本がある。ロレン・ノードグレン、デイヴィッド・ションタル『「変化を嫌う人」を動かす: 魅力的な提案が受け入れられない4つの理由』(2023年、草思社)では、次の一節がある。
イノベーターたちは魅力を高めるための「燃料」ばかりに注意を向け、方程式のもう半分――自分たちが生み出そうとしている変化に逆らう「抵抗」――をなおざりにしている。「抵抗」とは、変化に対抗する心理的な力だ。「抵抗」はイノベーションの妨げになる。そして、考慮されることはめったにないが、変化を起こすにはこの「抵抗」を克服することが不可欠だ。(pp.13-14)
この本は企業のビジネスパーソン向けの話がメインだが、日本の教員採用についても似たことが言えると思う。文科省や県教委等のリーダー・担当者は、燃料ばかりくべようとする「魅力の法則」に囚われているように思えるからだ。
もともと教員志望が強い学生や社会人なら、特段の施策は必要ないが、教員採用試験を受けるかどうか、あるいは試験に受かっても教員になろうかどうか迷っている人にとって、教職の魅力をPRするだけでは、多くの場合、心は動かないだろう。
なぜなら、程度の差はあれ、先生という仕事のよさ、やりがいについて知っている学生などがほとんどだからだ。そうでないなら、必要単位数も多いし、3~4週間の教育実習まで必要だし、試験対策の勉強も必要な教員採用試験を受けようかどうか迷う段階まで来ない。もっと前に、教職課程の履修から脱落(離脱)したり、民間就職に舵を切ったりしている。
つまり、やりがいPRは完全に無駄とまでは言えないものの(再認識するケースや新しい視点を知るケースなどもある)、わかっていることを伝えているに過ぎないので、効果は薄い。