なぜそんなことが必要なのかって? それは「トランプ2.0」(「もしトラ」よりも上品なので、最近はこっちの表記が増えている)に備えてのことだ。次期大統領がトランプ氏になったら、彼はIRAを破棄しようとしてくるだろう。そこでアメリカの「脱炭素政策」が後戻りしないように、日本側に「フックをかけよう」としているのだ。
「昭和のシステム」が崩れれば日本の賃金は上がりやすくなる
ことほど左様に、日本経済の戦略的価値は上がっている。ところが肝心の日本人自身が、とっても悲観的なムードを引きずっている。物価上昇は止まらないし、賃金は上がらないし、ろくなことはなさそうだよねえ、ということである。
そこで問題は、「物価と賃金の好循環」をどうやって実現するのか、ということに回帰する。前回の記事では「来年の春闘が大事」「3年連続の賃上げを」などと書いたけれども、それはあまりにも悠長すぎるかもしれない。
と思っていたら、4月8日の日本経済新聞朝刊に「中途採用5割迫る、24年度『新卒中心』転換点」という記事が出ていた。2024年度の採用計画に占める中途採用比率は、過去最高の43.0%となったそうだ。そうそう、これだよ、これ!
察するに多くの日本企業が「これからの本格的な少子化時代、新卒だけではとても人員の補充ができない」と考えているのであろう。だからその分は中途採用を増やすしかない。となれば、キャリア採用は「売り手市場」となる。わが国の雇用の流動化は進むし、当然、賃金も上昇するはずだ。
前回の記事では、アメリカ経済の名目賃金上昇率が2000年以降で年平均3.2%だった、というデータもご紹介した。CPI(消費者物価指数)の年平均2.6%を上回っていて、堂々の「物価と賃金の好循環」である。なぜそんなことが可能かと言うと、アメリカは雇用の流動性が高くて、ひとつの会社に安住しない。そして「待遇改善は転職で勝ち得る」ことが当たり前となっているからだ。
当連載の仲間であった、経済評論家の故・山崎元氏はよく、「日本の給料が安いのは、日本人が会社を辞めるガッツがないからだ」と言っていたものだ。彼のように、生涯に12回も転職する必要はないと思うけれども、サラリーマンが「一社懸命」を前提とする昭和のシステムが崩れてくれば、この国の賃金ははるかに上がりやすくなるはずだ。
「物価と賃金の好循環」には、それがいちばんの近道なのではないだろうか(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。
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