入れ墨の「彫り師」と結婚した39歳彼女の"幸福感" 「見えない階層」を超えた2人のリアルな生活

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完全に胃袋をつかまれている一馬さん。元公務員の父親と看護師の母親も朋美さんを大歓迎しているという。妹と弟にはそれぞれ配偶者と子どもがいるので、折に触れて集まると動物園状態だと一馬さんは嬉しそうだ。堅気とは言えない長男がしっかりした女性と結婚したことで清水家の幸福度が増しているのだろう。

しかし、階層を越えた結婚には代償もある。朋美さんの母親から拒絶されてしまったことだ。一馬さんの人柄ではなく職業名で一発アウト。一馬さんは鳳凰の絵を描いてプレゼントしたが逆効果だった。結婚以来、朋美さんは母親と連絡を取り合っていない。

親には拒絶されたけど、この結婚は正解

「育ててくれた母に親孝行したいと思っていたのでショックでした。もっと若い頃だったら、親の意見を大事にして一馬さんとの結婚をやめていたかもしれません。でも、40歳になる今は後悔したくないんです。人生、長くはありませんから」

母の古い知り合いからは、「今はそっとしておいてあげて」と助言してもらっている。時間とともに母親の気持ちはほぐれていくかもしれない。逆に、20年以上会っていない父親とは姉の仲介で再会する予定だ。

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結婚とは赤の他人と最も親しい関係を結ぶ行為なので、既存の人間関係に波紋を起こさずにはいられない。離れていく人もいれば、新たに出会ったり絆が強くなったりする人もいる。その変化の中で自分たちなりの正解をつかみ取っていくしかない。

一馬さんには若い弟子がいて、2店舗目は誰でも予約がしやすい安価なタトゥーショップにして運営を任せる予定だ。朋美さんはその構想に反対している。口コミで密かに評価されている一馬さんの技術を弟子を通じてでも安売りしてほしくない、という考えだ。まったく別の場所で生きてきた純粋なファンだからこその意見である。困りつつもまんざらでもない表情を浮かべる一馬さんを見て、この結婚は正解だと筆者は思った。

本連載に登場してくださる、ご夫婦のうちどちらかが35歳以上で結婚した「晩婚さん」を募集しております(ご結婚5年目ぐらいまで)。事実婚や同性婚の方も歓迎いたします。お申込みはこちらのフォームよりお願いします。
大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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