公認心理師が驚いた「フィンランドのインクルーシブ教育」、日本とは何が違う? 日本に求められる「社会モデル」への意識転換
また、3段階支援においては、いつ第2段階に進むのかといった明確なガイドラインがなく、地域や学校によって取り組みが異なるとともに、よい実践やうまくいかなかった事例などを共有する場所がなく、教員の知識や経験が蓄積されないという課題もあります。
今までフィンランドであまり見られなかった不登校の増加も、原因の一端をインクルーシブ教育が担っていると言われます。インクルーシブ教育の推進により、クラスの多様性が増し、教員が対応しきれていないことや適切な支援が行われていないことが一因です。さらに、特別支援学校の数は減らされてきていますが、まだ特別支援学級で分離教育を受ける子どもが一定数いることも問題視されています。
これらの課題を解決するためには、特別支援教員やアシスタントの数を増やすなど、リソースを充実させていくことやインクルーシブ教育に関する研修を行い、教員のスキルを向上していくことが不可欠だと専門家は話しています。
とくに、フィンランドでは問題行動のある子どもへの対応が難しい、苦手であると感じている教員が多いと研究で示されており、そうした子どもに対応するため、アメリカのポジティブ行動支援「School-wide Positive Behavioral Interventions and Supports (SWPBIS)」の考えを取り入れた教員研修のプログラムを行う研究プロジェクトなどが、私が勤務する大学でも進められています。
冒頭で述べたように、その国のインクルーシブ教育はさまざまな背景に影響を受けるため、フィンランドの取り組みを日本にそのまま輸入することは現実的ではありません。しかし、日本のインクルーシブ教育を進めるうえでのヒントは得られるのではと考えています。
例えば、医学モデルから社会モデルへの意識転換です。その子の障害を見つけ、その子自身をどう変えるかではなく、どうして困り事が出てきているのか、それを少しでもなくすために環境から変えられるものはないか、という視点への転換です。時には、これまで当たり前としてきた学校の校則や行事なども「本当に必要だろうか?」と柔軟に考える必要があると思います。
また、特別支援学校がセンター的な役割を担い、特別支援教員が地域の通常学校に入ってコンサルテーションする、という形も有効かもしれません。日本の特別支援学校には日本ならではのきめ細かな支援の経験と知識が蓄積されています。それを、地域の通常学校にいる特別な支援を必要とする子どもたちにも生かされるような仕組みづくりが進められるとよいのではないかと思います。
(注記のない写真:矢田明恵氏提供)
執筆:矢田明恵
東洋経済education × ICT編集部
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