直近10年でみると、特別支援教育を受ける児童生徒数は2013年度に32万人(全体の3.1%)だったのが2023年度には65.4万人(全体の7.0%)と倍増している(文科省「特別支援教育の充実について」)。

内訳は特別支援学校が8.5万人、小中学校の特別支援学級(以下、支援級)が37.3万人、通常学級(以下、通常級)に在籍しながら週に数時間、少人数で特別支援教育を受ける通級指導教室(以下、通級)に通う子が19.6万人で、とくに支援級と通級が2倍超に増えている。

以下は、支援級の在籍者の推移だが右肩上がりで増えていることがわかる。支援級は、軽度の知的障害や発達障害などがある児童・生徒を対象とした少人数の学級で、障害に応じた特別な指導や自立を目指した活動が行われている。

出所:文科省「特別支援教育の充実について」(第46回全国特別支援教育振興協議会資料)

すべての小・中学校に支援級を設置している自治体もあれば、3校に1校程度しか設置していない地域もあり、自治体や学校によって設置状況や実情はさまざま。中には同じ学校の通常級の教員から差別的な扱いを受けて、心を痛めている支援級の教員もいる。

通常級の教員は無関心、手に負えない生徒の押し付けも

関東地方の公立中学校で支援級を担任する山田太郎さん(仮名)の学校は、通常級と支援級を分けて運営しており、支援級の教員が専門ではない教科を含めてすべての授業を担っている。

「通常級には美術や技術の専任教員がいるのですが、『通常級の生徒だけで手いっぱい』と言われ、ほかの教科の免許しか持っていない支援級の教員が実技教科も手探りで授業を行っています。素人授業しかできず、生徒に申し訳なく思っています」(山田さん)

山田さんの中学校の支援級は、軽度の知的障害がある生徒が在籍する知的固定学級で、基本的には学年別に授業を行い、国語や数学など一部の授業は生徒のレベルごとに学年関係なく4つのグループに分けて授業を行っている。

だが、この自治体では、本来は知的検査でIQ75を下回る生徒しか入級できない規定になっているにもかかわらず、数年前まで通常級で「授業について行けず、発達に障害がある可能性が高い」と判断された生徒が知的検査を経ずに支援級へ移されていたという。

「自閉や注意欠陥多動などの特性が強い生徒を受け入れる情緒学級ではないので、学校生活に困りごとを抱えているだけでは知的固定級に入級できません。しかし、『通常級ではやっていけない』という理由だけで知的検査を受けずに、手に負えなくなった生徒を2年生を過ぎてから転籍させることが何度もありました。さすがに教育委員会から指導が入り、昨年は検査の結果、入級できないケースがありました。その生徒が在籍する通常級の担任は不満たらたらでした」(山田さん)

山田さんが担当する支援級では、多くの生徒が知的な遅れに加えて、さまざまな発達障害も抱えているため、指導計画を練るのは大変だ。放課後は、通常級の教員と同様に部活の顧問も受け持っている。しかし、同じ学校の通常級の教員からは何の支援も得られないばかりか、理解のない差別的な言動をたびたび受けているという。

「同じ部活の顧問教員からは『忙しい通常級とは違って楽なんだから、もっと部活を見てられるでしょ』と馬鹿にされ、5年間も教務主任を務めるベテラン教員は『えっ? てっきり支援級は3学年とも同じ授業をしているのだと思っていた。一応、学年別に授業していたんだね』とまったく無関心です」(山田さん)

中でも言われるたびに、山田さんの心が締め付けられるのが「〇組“さん”」という呼ばれ方だ。

「私の学校では、通常級が1組から4組まで4クラスあり、5組を欠番にして、支援級は6組が割り当てられています。通常級が3クラス編成の年度の場合は、4組を欠番にして、支援級は5組となります。なぜクラスの間をあけるのか理解できません。しかも、校内で支援級は『6組“さん”は——』と呼ばれます。通常級の場合は『1組は——』『2組は——』なのにです。“さん”付けされるたびに、私たち支援級はよそ者で、仲間ではないのだと打ちのめされます」

根強く残る「〇組“さん”」問題

ここまでひどいケースは全体から見れば少ないかもしれないが、支援級を無意識に差別する「〇組“さん”」問題は、ほかの学校でも起きているという。

山田さんと近隣の市区町村で通常級を担任する鈴木一郎さん(仮名)の中学校は、基本的に支援級だけで授業を行っているが、技術や美術など実技教科は通常級の専任教員がチームティーチングに入るやり方をしている。

「私の学校では、通常級と支援級のクラス編成で間をあけることはないですし、『〇組“さん”』と呼ぶ教員は一人もいません。でも、他校から異動してきた支援級の教員が『この学校は“さん”付けしないんですね。うれしいな』と言っていました。そのときは何のことだろうと思いましたが、地域や学校によっては『〇組“さん”』問題があるようですね」(鈴木さん)

別の公立中学校で通常級の教員をする佐藤花子さん(仮名)も「〇組“さん”」問題は存在すると指摘する。

「私の中学校では、今年度に初めて支援級が設置されました。他校では差別的に最後の組が振り分けられることが多いということで、逆に支援級を1組にして、通常級は2組から編成されました。年度頭の職員会議で管理職に『絶対に1組“さん”と呼ばないように』ときつく言い渡されました。それって、むしろ教員の中に『〇組“さん”』問題が根強く残っている証拠ですよね」(佐藤さん)

特別支援教育の充実は教育全体の質向上に寄与

一方で、疎外感を感じたことがないという支援級の教員もいる。中部地方の公立小学校で支援級を担任する黒部五郎さん(仮名)だ。

「この10年の間で、1つの学校にある支援級の数も、担当する教員の数も増えました。どのクラスにも支援が必要な子がいる状況で、支援級の先生との連携が通常級の先生にとっても必須になっています。世間においても、保護者の間でも支援級の認知度が高まる中で、自分の周囲では通常級と支援級の担任の間で壁を感じることはありません」

文科省は2022年、「今後採用するすべての教員に特別支援教育の担任を2年以上経験させる」よう通知を出し、特別支援教育に本腰を入れる姿勢をみせている。子ども一人ひとりの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びの実現を目指す中で、特別支援教育の充実は教育全体の質向上に寄与すると考えてのことだろう。今や若手で専門的知識を持った状態で支援学級に入ってくる人もいるという。

「誰もが支援級の担任になる可能性があるにもかかわらず、支援級と通常級の先生との間に壁があることに驚きです」と黒部さんは話す。

特別支援教育を受ける児童生徒が増える中で、学校運営においても1つの柱として位置付けていく必要がある。しかし、現状は通常級の運営に手一杯で支援級から目を背けてはいないか。これまでの風習だからと、腫れ物扱いと取られかねない振る舞いをしていないか。いま一度、振り返って考えてほしいところだ。

だが、教員の配置についても、新人や臨時的任用教員中心の配置で学級運営がままならない、授業もカオスな状態だと訴える支援級の先生がいる。後編に続く……。

(注記のない写真:くにさん / PIXTA)