公認心理師が驚いた「フィンランドのインクルーシブ教育」、日本とは何が違う? 日本に求められる「社会モデル」への意識転換

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社会モデルが登場する以前は、「医学モデル」が一般的でした。これは、障害は個人の身体的・機能的問題であり、それを治療や訓練によって、個人が社会に適応できるようにするという考え方です。

もちろん、医学モデルを批判するわけではなく、治療や訓練でその人が生きやすくなるのであれば、医学の力を借りることはとても大切です。一方で、障害を「個人が克服しなければならないもの」「本人(あるいはその家族)の問題」とするのは違うのではないかという考えから、社会モデルが生まれました。

日本では、まだ医学モデルの考え方が教育や福祉現場で根付いているように感じます。

私が臨床心理士として日本の小学校や療育センターで働いていたのは10年前ですが、その頃は、特別なサポートを学校などで受けるためには、「障害がある」という医師の診断や心理士の意見書が必要で、私も医師が診断書を書くための心理検査や知能検査に携わってきました。医師や心理士の予約を取るのに数カ月待ちで、「『今』困っているのにすぐに支援を受けることができない」などの話を度々耳にし、心苦しい思いをしていました。

フィンランドに来てからも、日本の特別支援に関わる研究者や行政の方と情報交換をする機会が度々ありますが、まだ日本は医学モデルに基づいて支援が提供されることが多いようです。

医学モデルが染みついていた私にとって、フィンランドに来ていちばん驚いたことは、特別なサポートを受けるに当たって、医師の診断や心理士からの意見書は必須ではないということでした。

フィンランドの通常学校では、クラス担任を持たない「特別支援教員」が常駐しており、子どもに困り事やつまずきが見られた場合、その特別支援教員や担任、保護者、当事者の子どもが一緒に話し合い、必要となれば翌日にでも支援が開始されるのです。

もちろん、より詳細なアセスメントや適切な支援の提供を行うため、必要に応じて心理士や医師の意見を聞く場合もあります。しかし、社会モデルを軸に考えると、医学的に障害があると診断されるかどうかはサポートの絶対条件ではなく、「困り事がある」という状態がすでに社会参加への障壁の表れなので、そこにできるだけ早く介入することがフィンランドでは重要視されているのです。

専門家がチームを組み「3段階支援」を展開

前述のように、フィンランドが障害者権利条約を批准したのは、日本より後の2016年です。「そこから急ピッチで現在の体制を整えてきたのか」と、疑問に思われる方もいるかもしれませんが、そうではありません。

フィンランドでは、そもそもインクルーシブ教育を進めるに当たっての素地が、歴史的な背景からあったと言えます。

1950年代にデンマークで発祥したノーマライゼーション(※1)という考え方は北欧を中心に世界中へと広がっていきました。さらに1970年代にフィンランドは、一定の学年で能力に応じて学術コースと職業訓練コースに分岐する学校制度から、すべての子どもが9年間同じ学校で学ぶ制度へと大きな教育改革を行いました。

※1 社会的支援を必要とする人もそうでない人も同等に生活できる社会を目指すこと

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