大借金に汚れた国土、そのツケ回しは無責任--『創発的破壊』を書いた米倉誠一郎氏(一橋大学イノベーション研究センター教授)に聞く
──エネルギー計画をはじめ全体ビジョン自体がはっきりしません。
内容は違うが、米国のケネディ大統領の決断を参考にしたい。
1961年4月12日にソ連の宇宙飛行士ガガーリンが人類初の宇宙飛行をした。それからほぼ1カ月後の5月25日、ケネディは議会で演説し、60年代末までに米国は月面に人を送り込むと公約。それまで地球周回の軌道にさえ乗せたことがなかったのだが、必ず逆転すると。
米国では若人がその演説に応えた。翌年に有為な学生が多く勇んでNASA(米国航空宇宙局)に入った。ありとあらゆるテクノロジーを集め、40万人規模の人材、何兆円というカネをつぎ込む。達成したのは8年後の69年、アポロ11号が月を往復した。そのときのNASA担当者の平均年齢は28歳だったという。
日本の場合は、5分の1のエネルギーで暮らすぞ、と宣言して、若者に大いに奮い立ってもらいたい。いきなりグーグルやフェイスブック級を考えろというのではない。いわば、日本人の得意の省エネ技術でこれから世界を再びリードするぞ、と宣言するに等しい。世界はかたずをのんで、そのソリューションを待っている。ここで「寝ぼけた政治家」のようにしていたのでは、脱原発に踏み出したドイツばかりでなく、イタリアにも負ける。従来に取って代わる知識体系を作るのだ。「正解のないテクノロジー」にこだわっていたら世界から置いてきぼりになる。
──取って代わる知識の体系とは……。
難しいことを言おうとしているのではない。たとえば、東京で5人乗りの車に5人乗っているのは2割もない。多くは運転手のみの1人乗り。それも近隣移動程度なら、ゴルフカートに毛の生えた車で十分だ。カーシェアリングや、コインパーキングを基地にしたレンタカーを活用してもいい。発想を変えて、新たな交通手段や仕組みを開発する。
今、主流の車自体、1890年代にダイムラーが考案したテクノロジーを踏襲したままだ。誤解を恐れず言えば、ほぼ鋼鉄の塊に鋼鉄の塊の内燃機関を付けて、そこでバチスタエンジンを爆発させ、カムをかませてタイヤを回転させるスキームだ。そこにどんどん新風を吹き込む。
復興においても、最高の「廃炉」のやり方を果敢に蓄積することだ。老朽化も進み、どうしたらいいか、いずれ日本に聞きたがるに違いない。