肥満症治療薬「ウゴービ」保険適用される人の条件 週に1回「使い捨て注射器」を自分でお腹に刺す

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日本人を含むアジア人は、白人と比較して、肥満による健康障害をより起こしやすい。同じ体重で比較した場合、白人よりアジア人は2型糖尿病の頻度が高い、という報告がある。American Diabetes Associationでは、白人は BMI 25kg/㎡以上で、アジア人はより低い体重のBMI 23kg/㎡以上で糖尿病のスクリーニング検査を受けることを推奨しているほどだ。

肥満症として治療を開始する基準も、アジア人は白人よりも低く設定すべきだ。ところが、ウゴービの治療適応は人種にかかわらず一定だ。人種によってウゴービ治療の恩恵を受けにくいことがEconomist誌でも問題点として指摘されている。人種の特性に応じて、適した治療開始基準を定めるか、基準に柔軟性を持たせるべきだ。では、日本のウゴービの治療開始基準が欧米よりタイトなのはなぜだろうか?

日本では『肥満は自己責任』という考えの人が医療者を含めて多い。太っているのは食欲を抑えられず、運動もしない自己管理の悪さが原因だ、太っているのは意志が弱いからだ、とする論調だ。肥満を慢性疾患とする世界の潮流とは大きく異なる。

特定保健指導のデータからわかるように、食事摂取や運動など行動を変容させて減量することは、ほとんど不可能なのだ。今こそ自己責任論から脱却して、肥満を慢性疾患として捉え直し、効果的な減量方法を必要な人が受けられるようにすべきだ。

医療ダイエットの応用が進むアメリカ

肥満は慢性の病気であり、治療対象とすべき、との認識が医療界の常識だ。肥満には遺伝的背景、腸内細菌、また肥満を起こしやすいことが知られている超加工食品の普及や、それに頼らざるを得ない低所得者に肥満が多い経済格差など、個人の責任に帰すことができないさまざまな要素が関連している。

さらに、アメリカでは更年期の体重増加や、うつ病など向精神薬の服用による体重増加をセマグルチドで治療するなど、さまざまなアイデアが提唱されている。また、肥満を改善することが多のう胞性卵巣症候群やアルコール依存症、非アルコール性脂肪性肝疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症候群などさまざまな疾病の改善につながることが報告されつつある。

Science誌が2023年のブレークスルーに選定しているほど、セマグルチドなどのダイエット薬は画期的な治療薬だ。ぜひ今年こそダイエットに成功する人が増えることを願いたい。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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