川崎汽船が前社長不在の株主総会。株主の関心は原発影響やバラスト水に
海運大手の川崎汽船は6月24日に東京都千代田区の海運ビルで定時株主総会を開催した。5月12日に「一身上の都合」で突如辞任した黒谷(くろや)研一・前社長の詳しい辞任理由については明らかにされなかった。
来場した株主は前年比1人減の164人。議案は3つで、配当、役員選任と同賞与。10時02分に開始。議長を務めたのは朝倉次郎社長。5月13日に就任したばかりだからか、緊張した面持ちだった。冒頭の挨拶で黒谷前社長が辞任したことに触れたものの、総会を黒谷氏が欠席した理由について、「やむをえない事情」と述べるにとどめた。ちなみに、前2011年3月期決算を承認する4月下旬の取締役会、5月13日の朝倉社長就任会見も、黒谷氏は欠席している。
総会の質疑応答でも、株主から黒谷氏辞任の理由を追及する質問はなく、真相は依然としてやぶの中だ。
質疑応答で、福島第一原発事故の影響を問われると、コンテナ船事業管掌の村上英三専務は、「コンテナ船では直接の大きな影響は出ていない。むしろ自動車産業の生産への影響が大きい。ルネサスエレクトロニクスの自動車用マイコンに影響が出た。11月か12月にフル生産という話だったが、2、3カ月、(復旧が)前倒しになって一安心している。
実際の影響(が出たの)は4~6月。7月からは各メーカーの生産状況が9割くらいに戻り、その後は通常モード。CKDの自動車部品輸出に若干の影響が出たが、日本のポーションが減ってきていて、中国とかで貨物量が確保できる」。グループ事業担当の鈴木俊幸常務(新任)は、「重量物船は50%出資の独SALが担当している。震災前はクリーンエネルギーとして原子力が伸びて(原子力関連プラントの)輸送が増えると考えた。しかし震災の影響で当初期待していた伸びほど出てこないだろう。ただ、海上風力発電が欧州で拡大する見込み。SALでは2000tクレーン付きと世界最大の吊り上げ能力を持つ重量物船が竣工。DPS(ダイナミック・ポジショニング・システム)搭載で設備輸送に適した船だ。このような分野での活躍を期待したい」と補足した。
全部で9つあった質問のうち2つは環境問題。バラスト水(無積載で出航する際に船底の重しとして用いられる海水)処理への取り組みについて、技術、環境担当の竹永健次郎取締役は「(IMOが)2004年にバラスト水管理条約を採択したが、まだ発効していない。バラスト水が環境に与える影響の大きさを考えねばならない。(他の条約と違い)同条約は、新造船だけでなく、就航船(既存船)にも処理装置の設置が求められている。当社の就航船は百数十隻、世界の就航船は4万~4万5000隻。(当社では)ボランタリーにバラスト水の張り替えを行っているほか、日本海事協会、メーカー、造船所とプロジェクトを作り、実際に倉庫で大型バルカー(バラ積み船)への処理装置設置をやっている。ルールは発効していないが、できるところからやっていこうと準備をしている。積極的に取り組んでいる」と述べた。
日本海事協会によれば、同条約は30カ国批准し、かつ、合計船腹量が商船全体の35%を超えた日から12カ月後に発効する条約だが、現在の批准国は28カ国で合計船腹量25.43%(4月6日時点)。IMOとは国際海事機関のこと。
今回、取締役を退任するのは、社長辞任した黒谷氏を筆頭に6人。川崎汽船初の社外取締役で古河電工の創業家出身、古河潤之助氏も今回退任した。一方で、元外務省事務次官の藪中三十二(みとじ)氏が社外取締役に就任。株主からは「クリーンヒット。薮中氏の知見を生かしてほしい」との声が上がった。
質疑応答には38分間を要した。3議案すべて可決し11時16分に閉会。所要時間は1時間14分間(去年は51分間)。
(長谷川愛、平松さわみ=東洋経済オンライン)
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