そのためか、習近平政権になってからの中国は、「92年コンセンサス」は「一つの中国」原則を体現するなど、その解釈にさまざまな説明を加えるようになり、その曖昧さが消失していった。習政権はそのうえで、政府間交渉の前提として「92年コンセンサス」を受け入れるよう台湾側に求め続けている。
台湾社会は「92年コンセンサス」を信じなくなった
――台湾社会は「92年コンセンサス」をどう受け止めているのでしょうか。
習近平氏が「92年コンセンサス」の定義を厳格化していることが台湾でも報道され、台湾内部でもその内容を疑問視する声が上がり始めた。国民党は今も、「92年コンセンサスは各自が自由に解釈できるものだ」と説明するが、台湾の人々はその説明を信じられなくなってきている。
「92年コンセンサス」を曖昧なままにしておけば、台湾の多くの人は受け入れやすかった。しかし、その解釈にさまざまな説明が加わるのと並行して、香港では「一国二制度」が骨抜きにされた。
その頃、2019年1月に行った対台湾政策の方針を示す演説で、習近平は「共同で国家統一を目指す努力をする」のが「92年コンセンサス」であり、「統一」後には「一国二制度の台湾モデル」を模索すると述べた。
台湾の人々は、「92年コンセンサス」を受け入れたら「一つの中国」原則を受け入れたことになり、さらには「一国二制度」の受け入れを迫られ、最終的には香港のようになるのではないかと具体的に想像するようになった。
国民党もそれを意識して、今回の選挙戦では「一国二制度」の不支持や、「中華民国憲法に沿う」条件の下でのみ「92年コンセンサス」を認めることを掲げて、有権者が抱く懸念の払拭を図っている。
――なぜ中国側は「92年コンセンサス」の定義を厳格化し出したのでしょうか。
いくつか理由があるだろう。台湾海峡においては、軍事力でも経済力でも中国が優位であると誇示する中で、習近平政権は台湾民意の動向や選挙結果に左右されることはないとの態度を見せ始めた。実際は気にしているはずだが、対外的には相手にしない姿勢を強めている。
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