「国が決めている配置基準は、0歳児で園児3人に対して保育士1人、1~2歳児は園児6人に対して保育士1人ですが、子どもたちをちゃんと見るにはまったく足りません。うちでは配置基準以上の人員を採用していて、1~2歳児では園児8人に対して4人を配置していますが、それでも決して十分ではありません。例えばお昼寝時は窒息を防ぐため、0歳児は5分に1回、1~2歳児は10分に1回呼吸確認をしますから、『一緒にお昼寝』などできるはずもありません。呼吸確認をしながらも、園児が起きている時間にはできない、ミーティングや連絡帳・日誌への記入などをこなしており、お昼寝の時間こそ忙しいのです。しかし、寝られない子や、途中で起きてしまう子がいればそうした仕事もできません」

保育の実態を無視した「健診」ルールの弊害
政府は、2023年4月に発表した「異次元の少子化対策」のたたき台で、保育士を手厚く配置した施設に運営費を加算して支給する方式の導入を検討しているが、保育士の配置基準が変わるのは1歳児(園児5人に対して保育士1人)と4~5歳児(園児25人に対して保育士1人)のみ。保育士の絶対数を考慮して割り出した数字だろうが、保育の実態に即していないのは明白だ。こうした“実態無視”のルールがほかにも存在すると石井さんは指摘する。
「年2回義務付けられている健康診断は、当日園児が休むと後日、保護者ではなく園が病院まで連れていかなければならないのです。外出時は、園児が1人でも保育士が2人つかなければならず、園の体制が手薄になってしまいます。うちは人員に少し余裕をもたせているのでなんとか回していますが、それでも保育士の急な欠勤があれば対応できないので、綱渡り状態です。保護者へ前々から何度もお知らせはするのですが、必ず休む人はいるんですよね。一度思い切って、自治体の担当者に『どうしても園が連れていかなければダメですか』と聞きましたが、『国で決められているので』の一言で取り合ってもらえませんでした。配置基準ももちろんですが、手厚い保育を難しくするようなルールも見直してほしい」
それでも保育士を続けるのは、「子どもたちが本当にかわいいから。保護者からなんと言われようと、子どもたち1つ1つの言動にはかわいいがあふれていて、こんなに素敵な職業はないです」と語る石井さん。だからこそ、十分な保育を阻害する配置基準や、実態が理解されていない現在の状況には我慢ができないと力を込める。
どこかに「不適切保育」が存在するのは事実だが、大半の保育士が、石井さんのように日々奮闘していることも事実。「少しでも理解が広がってより良い未来につながってほしい」という声をどう受け止め、子どもたちをどう守っていくか、社会全体に問われている。
(文:高橋秀和、注記のない写真:mits / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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