「明らかに保護者の目が変わりました。私たちもミーティングでは『いつ誰が聞いているかわからないので、言葉を選んで話しましょう』と申し合わせをしています。いくら良い保育をしていても、言葉ひとつで信頼が失われてしまいますから」
石井さんの保育園は今まで不適切保育の指摘を受けたことはなく、クレームには都度対応し、自主的に配置基準を上回る人員配置を行うなど、手厚い保育を実践している。特段評価はされないが、それでも当然、有事の際には批判の矢面に立つ事になる。
構造的な問題もある。認可保育園は、公立も私立も自治体の認可を受けており、自治体の計画に則って運営しなくてはならない。そのことを知る保護者は、役所へ直接クレームを寄せるのだ。不適切保育がクローズアップされて以降、専用相談窓口を設ける自治体が増えていることも拍車をかけている。
「まさか、という保護者が役所へ連絡していることもあります。役所から『こんな電話が入りましたけど、実際はいかがですか』と連絡が入り驚いたこともありました」
つねに緊張状態にさらされている状況で、保育園側も自衛の策を講じている。
「職員のSNSは禁止していて、食事に行くときはなるべく個室にします。さらに、外で園の話題は絶対に出しません。完全なプライベートでも、あえて隣町まで出たりしていますが、若い保育士はやはり息苦しそうですね。それでも、不思議と保護者に出会ってしまうことが多く、『ミニスカートを履いて彼氏と手をつないで歩いていた』などと保護者間で話題になることもあります。他の園では、髪の毛の色やプライベートでの服装まで細かく制限するところがあるそうですが、そうしたくなる気持ちもわかります」

「お昼寝時間」にミーティングや事務作業を詰め込む
給料が全産業平均よりも低いのも課題だ。2023年3月に厚生労働省が公表した「令和4年賃金構造基本統計調査」によれば、一般労働者の平均月給は31万1800円。保育士の平均は26万6800円と4万5000円の格差がある。
「以前、著名人が『保育士なんて誰でもできるから、給料が低くても当然』と発言しました。確かに、1つ1つの仕事は誰にでもできるのかもしれません。でも、子どもたちからずっと目を離すことなく、年齢や月齢に応じて異なる注意点に配慮し続けるのは簡単ではないと思っています」
保育士は、「子どもと遊ぶだけの仕事では」「一緒にお昼寝しているんでしょう」などと言われることも多いというが、実態はまったく異なる。また、幼稚園と保育園でもその様子は異なるという。
「過去働いていた幼稚園では、園児を14時過ぎに帰していたので、職員のミーティングや事務作業も落ち着いてできました。しかし、保育園は7時〜19時までずっと子どもたちがいます。休憩時間を回すのも難しく、お昼寝(午睡)の時間に交代で休むしかありません。その間は配置基準の最低人数しかいなくなるので、『今だけは地震が起きないように』といつも念じています」
特に、0歳児や1歳児、2歳児の保育は簡単ではない。月齢によって発達状況に大きな差が出るからだ。