あの働かないオジサンがいまだに高給の理由 あなたは賃金・人事査定に満足していますか

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先述のように、職務ごとに忠実に賃金を決めてしまうと、配置転換によって賃金ダウンが起きて社員に大きな不公平感が出てしまうことがある。そのため、曖昧になり得る役割部分の評価で色を付けて、配置転換後も賃金が下がらないような工夫をするわけだ。

近年、新聞などでは著名大企業が管理職以上において海外と同様の職務給を導入するというニュースが登場することがある。ただ、これも取材を進めてみると、実際には海外の職務給とは内容が異なっている。これらは範囲レート給といって、同じ職務でもそれにひもづけされる賃金に幅がある(例:XX課長は年収900万~1100万円など)。

カタチだけを真似ても根っこまでは変わらない

範囲レート給自体は海外でも普通に行われている。ポイントは運用面だ。新たに異動してくる人の元の賃金を考慮して、範囲レートの中で降給とならない措置を取っているのだ。つまり、形だけは欧米など海外型を目指しているのだが、職務を定めずに雇用契約を結び配置転換を繰り返すという日本型雇用慣行の根源は貫いているため、結局のところ「仏作って魂入れず」。ヒト基準の賃金を脱し切れていないのだ。

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海外の賃金形態では、賃金という値札はあくまで職務にくっつき、誰がその職務に就こうとその職務の値札は変わらないという客観性を持っている。もちろん、熟練度に応じた範囲レートはある。

これに対し、世界でもまれな日本型雇用慣行では、賃金の値札はヒトにくっつく。職務遂行能力や役割などの形でヒトを基準とした評価を行うところに特徴があり、その本質は成果主義ブーム後も変わっていない。

ビジネスパーソンが自分の賃金・人事評価に不満を持ちがちなのは、その評価がヒト基準であることに根本的な原因がある。

多様なヒトを基準とした評価は原理的に客観性を持つことが難しく、結果的に上司の裁量や心情に左右されることが多いからだ。「あの人は仕事ができる」や「あの人は若手の教育がうまい」といったことをどのように客観的に数値化するのだろうか。

一方で企業は同一労働同一賃金原則という夢を追いかけながらも、その本心においては、強力な人事労務管理ツールである配置転換という使用者命令権を捨てる気はないし、そのためにも職務の定めのない雇用契約という日本型雇用慣行の根源も変えるつもりもない。その当然の帰結として、見直しの掛け声とは裏腹に、ヒト基準の賃金制度が生き残り続けることになっている。

ビジネスパーソンや企業の不満を本当に是正するなら、メンバーシップ型という日本型雇用システムの根源から見直すしかない。 

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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