あの働かないオジサンがいまだに高給の理由 あなたは賃金・人事査定に満足していますか

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実質的な年功序列は色濃く残っている(写真:Graphs / PIXTA)

これに対し、日本の賃金は職務ごとに決めない。雇用契約で職務を定めていないからだ。

仮に日本で職務ごとの賃金形態(職務給という)を採用すると、職務変更のたびに労働者の賃金は変わることになり、高賃金職務から低賃金職務への配置転換が行いにくくなる。

そのため、日本に定着したのが、職務でなくヒトを基準にした賃金形態だ。具体的には、その人の勤続年数や職務遂行能力を基に賃金を決めるやり方だ。このうち、職務遂行能力を基に決める職能給は1970年代以降、日本の賃金制度の主流となった。

職務遂行能力とは、毎年あげる成果や業績とは別に、その人が職務を果たすうえで持っている潜在能力にスポットを当てる。よく社内で「あの人は仕事ができるね」といった話をするが、そうした曖昧なレベルの能力を含む。その能力を査定によって資格でランク付けし、賃金を決める。

職能給の降給・降格はない

職務遂行能力は基本的に経験(年齢や勤続年数)に比例して伸びる。また、職務遂行能力は蓄積型で落ちにくいため、職能給には昇格スピードの差はあっても降給・降格はない。そのため、職能給も年功賃金の一種になっている。

1990年代に巻き起こった成果主義ブームは、こうした年功賃金の否定が目的だった。職能資格ではなく、単年度の成果や業績を基に毎年の賃金を上下させるのが成果主義賃金だ。だが、もともと成果を測りにくい職務があるうえ、日本では職務が限定されず同僚の仕事をフォローするなどチームワークの強さが特徴だ。

「チームの成果をどう個々人に配分するのか」。その評価をめぐって社員の不満は拡大した。また短期的な成果の出る仕事しかしない社員や、成果の出にくい職務への配置転換に不満を持つ社員も続出し、最終的に成果主義賃金を採用した企業のほとんどが制度の見直しを余儀なくされた。

それでは成果主義ブーム後の現在、日本の賃金形態はどのようになったのか。大雑把にいえば、中高年の管理職世代以降において年功的な昇給が廃止され、賃金のフラット化が進んでいると言える。その際、普及が進んでいるのが役割給というものだ。これは一見、職務ごとに賃金を決める職務給に近い。役割給は、職務給に上司から与えられた役割(職責)を加味したものと考えられるからだ。

その点では、日本の賃金制度は日本独特のヒト基準から世界一般の職務基準に移行していると考えることができる。ただし、先ほどの「役割」という部分が曲者だ。役割とは、「経営方針や上司の意思をどれだけ反映したか」という曖昧なものとなっており、実はこれが企業にとって都合がよいのだ。

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