アメリカは大英帝国のように衰退しない--ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ

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今のアメリカは問題を抱えているが、古代ローマのような絶対的な衰退をしているというのは正しくない。そしてまたイギリスとの類似を主張するのも間違いである。大英帝国の相対的なパワーの衰退と、現在のアメリカの衰退の間には非常に大きな違いが存在している。第1次世界大戦まで、イギリスは軍事力で世界4位、GDPで4位、軍事予算で3位にすぎなかった。国防費は平均でGDPの2・5~3・4%を占め、帝国は主に植民地の軍隊によって管理されていた。

だが、植民地におけるナショナリズムの台頭により、イギリスにとって帝国の防衛が大きな負担となっていった。それに対して、アメリカ経済は植民地独立による影響を受けることはなかった。アメリカの地政学的な状況もイギリスと異なる。イギリスはドイツやロシアという強力な近隣国の台頭に直面していたが、アメリカは二つの大海と弱い隣国という恩恵にあずかっていた。

こうした違いがあるにもかかわらず、アメリカ人は、周期的にアメリカ衰退論を持ち出す傾向がある。建国の父たちもローマ共和国のようにアメリカが衰退することを心配していた。アメリカ人の持つ文化的ペシミズムは清教徒のルーツまでさかのぼることができる。チャールズ・ディケンズは150年前に、「アメリカ市民は一人残らず、アメリカはいつも抑圧され、停滞し、憂慮すべき危機の中にある」と信じ込まされていると指摘している。

過去を振り返ると、1957年の旧ソ連の衛星打ち上げ、70年代のニクソンショック、80年代のレーガン政権の財政赤字拡大の後に、衰退論が広がった。80年代末、アメリカ人は自国が衰退していると信じていた。しかし、それから10年も経たないうちに自国は唯一の超大国だと信じ始めるようになる。そして今、再び人々は衰退論を信じるようになっている。

ハーバード大学のニーアル・ファーガソン教授は、「没落の段階について議論するのは時間のムダである。政府と市民が最も懸念しているのは、急激かつ予想外に起こる没落だ」と語っている。同教授は、今後10年間に倍増すると予想される政府債務はアメリカの力を破壊することはないにしても、アメリカの、危機を乗り切る能力に対する信頼を損なう可能性があると考えている。

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