モスクワの日本大使館がクーデター2日目に関心を持っていたのが、以下の論点であった。超法規的な事態が生じているのに、完全にピントがずれていると言わざるをえない。公電第5328号の続きを引用しよう。
4.今次非常事態宣言との関連で、法制度上の問題点としては、多々あるが、主なものとして次の点が指摘し得る。
(1)憲法第127条の7によれば、大統領が執務不能となり、副大統領が大統領代行となつた場合、3カ月以内に大統領選挙が行われることになるが、右は憲法第127条の1において直接選挙となる、然るに今次非常事態は6カ月とされており、その間党活動の禁止等がなされており、この関係が明確でないこと。
革命期には法秩序は脆弱に
クーデターを起こした人たちが、国民の直接選挙による大統領選挙を3カ月以内に行うといったことを考えているはずがない。憲法を順守するつもりがあるならば、そもそも国家非常事態委員会などつくるはずがない。ソ連体制では共産党が国家や憲法の上に立つ。このソ連の内在的論理が日本の外交官にはよくわかっていないので、憲法と非常事態宣言の整合性についてこだわるのだ。
もっとも筆者が法学部出身だったならば、同様のこだわりを持ったかもしれない。筆者は同志社大学神学部と同大学院神学研究科で学んだ時期に、キリスト教史もかなりまじめに勉強した。そこでは「必要は法律を知らない」とか、「約束はしたが、それを守るとは約束していない」といったような事例がたくさんあった。法秩序が革命期にはいかに脆弱であるかを学んだことが、ソ連末期から新生ロシア誕生の混乱期に、筆者が情勢を分析し、キーパーソンを見極めて情報源を開拓するうえで、とても役に立った。
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