「半導体人材を育成せよ」九州は産学官で総力戦 TSMC誘致で「年間1000人不足」自前で育てる事情

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アスカインデックスの講義を受ける高専生(記者撮影)

センターを運営するのは、工作機械などの中古販売を手がけるアスカインデックスだ。閉鎖予定だった半導体関連の部品工場を買い取り、昨年9月に研修施設へ転用。メーカーや人材派遣会社などから依頼が殺到し、初年度は想定の4倍超となる約500人が訪れた。

実機に触れる環境が評判を呼び、教育機関からの問い合わせも増加。九州経済産業局が2022年度に実施した大学生らへのアンケート調査では、約6割が「半導体産業で働きたいと思わない」と回答し、その理由は「仕事がよく分からない」が最多。本物の工場での学習は、若年層の理解を得るのにうってつけというわけだ。

同局の推計によると、専門的な職種のうち、特に不足が懸念されるものは2つ。製造工程をプログラムする生産技術職と、新たな製品を生み出す研究開発職だ。いずれも幅広い理系知識が求められる。現場で数年単位の経験を積み、やっと1人前になるという。同局幹部は「半導体に進む学生の増加が唯一の根本的な解決策」と断言する。

これに応えようと、同社は学校相手の研修をすべて無償で実施。所属する元エンジニアが教材を手作りし、これまでに小学生や高校生らの受け入れ実績がある。今後は年間400人に拡大する計画を立てており、丸山翼センター長は「日本の半導体が復活するかは若い人に懸かっている。裾野の拡大に貢献し、業界や地域が元気になれば、最終的にはウチの利益にもつながる」と意気込む。

教育機関での半導体教育が加速

人材の源となる学校の動きも活発だ。九州大は6月に「価値創造型半導体人材育成センター」を設立し、教員約20人で全学的な教育を開始。先端技術者をはじめ、半導体分野の起業家やコンサルタントなど、さまざまなプロの輩出を目指す。

熊本大は2024年4月、学部相当の「情報融合学環」と工学部学科の「半導体デバイス工学課程」を開講する。前者ではAIやデータサイエンスを中心とした講義を展開し、製造工程DX化の専門家も育てる。後者では機械や電気、化学などの関連知識を包括的に学べる。

一方、教える側にも課題が残る。先端半導体の製造は約1000工程に細分化され、自分の専門以外は詳しくない人が多いという。そこで、九州工業大学マイクロ化総合技術センターは、全体の流れをつかむ社会人向け講座を提供する。保有する現役の製造ラインを用いて、半導体の製作を4日間で実体験できる。受講者にはスキルアップ目的の技術者が多い一方で、教育関係者も受け入れている。

筆者が訪れた9月1日は研修の最終日。全国の高専から集まった教員ら13人が防塵服を着込んで代わる代わる顕微鏡を操作し、ウェハー上に形成した電子部品の状態を点検していく。その後、長棒を取り付けた容器に移し、350度の電気炉へそっと差し入れる。約5分で仕上げの熱処理を終え、半導体は完成だ。電流を流すと集積回路の作動がモニターで確認され、教室の各所で歓声が上がった。ウェハーは約2センチのチップに切り分けられ、記念品として受講者に贈られた。

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