富士山「登山鉄道」、山梨県がこだわる真の理由 富士吉田市は「電気バスで十分」と反対姿勢

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このように富士山の環境や混雑をめぐる問題について県と市が対立しているが、解決まで長い時間はかけられない。9月10日から始まったユネスコの世界遺産委員会で、イタリアが気候変動やオーバーツーリズムからベネチアを守る努力が足りないとして、ベネチアを存続が危ぶまれる「危機遺産リスト」に登録すべきかどうか協議された。結局、登録は見送りとなったが、危機遺産に登録されると国には危機脱出に向けた努力を行う必要があり、状況が改善されないと世界遺産登録から抹消される可能性がある。

5合目駐車場
5合目の駐車場の人工的景観は登山鉄道整備を機に周辺の緑と調和した空間にする方針だ(記者撮影)

富士山も世界遺産登録の決定時、ユネスコの諮問機関であるイコモスから登山者の混雑、自動車による環境負荷、人工的景観などを改善すべき点として指摘されている。県は登山鉄道構想に合わせて人工的景観を周囲の緑に調和させるような整備も行うことで、こうした問題を一気に解決させたいと考えており、外国メディアに向けてPR活動を積極的に行っている。

県は地元に十分な説明を

海外から登山鉄道の機運を醸成しようとする県に対して、市は「われわれにはきちんとした説明がない」と不満を隠さない。市は10月以降に地元の交通事業者や観光事業者らと登山鉄道構想について意見交換する場を設ける方針だ。

一方の県は、「登山鉄道構想は富士山を取り巻く課題を解決するソリューションの1つとして提案しており、鉄道ありきではない」(和泉次長)。地元や観光事業者に十分な説明ができていなかったと認め、今後あらゆる機会をとらえて説明していきたいという。

県と市が対立している状況が世界遺産としての富士山の評価にプラスに働くはずはない。アプローチこそ違うが、県と市が目指す目標は同じだ。できるだけ早い合意形成が望まれる。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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