トヨタ、「意志ある踊り場」の先に何を見る? 日本初の"純利益2兆円企業"が抱く危機感

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トヨタの危機感の根源にあるのは、販売台数の頭打ち感だ。同日に発表した2015年度予想は、営業利益が前年度比1.8%増の2兆8000億円、純利益は同3.5%増の2兆2500億円と、ほぼ横ばいだった。

販売台数は、市場全体が好調な北米で増加する反面、日本やアジア、ロシア、中近東などで減少によって、連結ベースでは同7.2万台減の890万台を見込む。持分法適用の中国を含むグループ総販売ベースでも1.8万台減の1015万台とマイナス見通しだ。

実際、2014年度も日本やアジアの低迷で連結販売台数は減少した。中国の伸びでかろうじてグループ総販売台数は増えたが、わずか3.5万台増だった。販売台数見通しは多少保守的な側面があるとはいえ、中国市場の減速感が強まる中で大きく増える環境にない。

費用は軒並み増加基調

一方で、厳しい競争を勝ち抜くためには、研究開発費や設備投資などは増やしていく必要がある。新興国を中心に労務費も増加基調だ。原価改善や営業努力などを積み上げても、利益を大きく増やすことは難しい。

予想の前提は1ドル=115円、1ユーロ=125円で、足元の1ドル=120円、1ユーロ=134円が続けば、2000億円超の利益押し上げ要因になる。ただ、実態として販売台数を増やしていかないことには、本来的な意味での「成長」とは呼べない。

むろん、そのための布石は打っている。

1つがTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)と呼んでいる自動車の新しい開発手法だ。当面は先行投資がかさむが、順調にいけば、商品力アップによる販売台数増や収益力の一段の向上が期待できる。今年後半に投入を予定する新型「プリウス」が第一弾。TNGAが想定どおりの効果を生み出せるのか、まさに“分岐点”となる。

中国新ラインやメキシコ新工場、グループの事業再編、北米も本社統合など、次々とブチ上げた施策をいかに実行していくかも、今後の成長のカギになる。「チャレンジしなくなれば、必ず成長は止まる。結果が出る・出ないではなく、とにかくチャレンジをし続ける」(豊田社長)。

短期的な利益だけを追いかけるのではなく、30年、50年という視座に立った布石をどれだけ打っていけるか。「トヨタでは過去、打席に立って1割しか打てないなら、ゼロ打数ゼロ安打が評価された。ヒットが打てなくてもバッターボックスに立った人が評価される会社にしたい」。豊田社長のこの言葉は、社内へのメッセージであると同時に、株式市場に対する宣言でもある。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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