「年収800万円」の俳優がスト参加する深刻事情 ハリウッドでストをしている彼女の言い分
「例えばトム・クルーズは、自分のアクションは自分でやるし、彼は自分の作品のプロデューサーも務めているから、スタジオと個別に交渉できる強力なパワーを持っている。でも私たちには、組合以外に誰も守ってくれる存在はない」とムラシュコさん。
ウクライナのザポリージャ出身の彼女が、アメリカ移住したのは近隣のクリミアがロシアに併合された2014年だった。「将来戦争が起きるかもしれないから、安全な土地に行こう」と決心し、アメリカで会計事務所に就職したが、数字に興味が持てず、俳優業に転身。最初はパートタイムでエキストラを演じながら、フルタイムの俳優になり、組合にも加入して、コロナ禍も乗り切った。
ロシア軍がウクライナに侵攻し、故郷ザポリージャにある原子力発電所がいつ攻撃されるかわからないという一触即発の危機に直面し、最近、母親をウクライナから連れてきたばかりだ。母親の難民申請の手続きをしながら、これからしばらくは2人分の生活を支えていく収入を稼ぎ出さなければならない。
俳優業から足を洗った仲間も
ストライキ中は俳優としては働けず、失業保険も出ないため、月に1500ドル(約21万円)かかるアパートの家賃のほかに、生活費を何としても捻出する必要があるという。
「物価高騰もすさまじいし、俳優業ではもう食べていけないからと、この業界から足を洗った人もいる。でも、自分はこの仕事で生き残りたいから、プラカードを持って闘う。映画の観客にとっても、生身の人間である俳優が表現する、さまざまな感情の機微をスクリーンを通して味わって楽しむ経験を奪われたくないはず」とムラシュコさん。
インタビューが終わると「語彙力がなくて、ごめんなさい」と彼女はつぶやいた。彼女の英語はネイティブではなく、アクセントも強いが、そんな状況でハリウッドの扉を自力でこじ開け、せりふのない俳優業で生計を立てられるまで努力してきた。
俳優組合に加入したばかりの頃の仕事が、クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で、プレイボーイ・マンション内での撮影だった。「世の中にこんな面白い仕事現場があっていいのか、と驚愕した。その日以来、この業界の片隅で生きていこうと決めた」と彼女は言う。
真夏の灼熱の太陽の下、吹き出る汗をぬぐいながら、彼女はプラカードを持ち、くしくも『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の配給元である、ソニー・スタジオの前を練り歩いていた。
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