前原誠司氏「自主防衛が主で、日米同盟は補完に」 「アメリカの抑止力」の後退に備えた対応を

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私は安倍晋三元首相の業績のうち、安全保障で評価しているのは、中身は悪かったけど、集団的自衛権の行使に道を開いたことです。安保法制の法案には、われわれは反対したけど、集団的自衛権を一部行使できるようにしたことは、時代の流れの中で、私は評価しています。できれば、憲法を改正して集団的自衛権を持つのが王道ですけど、特に第9条の改正は今でも相当、ハードルは高いと思います。

こういう状況で、今、「専守防衛、非核3原則、積極的平和主義」という基本方針を変えて、3文書を作れるかというと、なかなか難しい。王道に立てば、集団的自衛権の見直しもしっかりやるべきですが、どうしても憲法の議論になってしまう。私ども国民民主党も、専守防衛と言えばいいというロジックに立っていますが、専守防衛は時代と共に変化するものであって、聞く人によっては、屁理屈にしか聞こえないかもしれませんね。

経済、エネルギー、食料も安全保障の対象

塩田:「ウクライナの現状は、専守防衛の現実の姿」と唱える人もいます。

前原:外形的にはそうかもしれないけど、軍事提供を受けているNATOからの要請で、「あの範囲の中でやれ」と言われて、ウクライナは非常に抑制された戦争をしている。ロシアが戦術核を使用する蓋然性が高くなるような形にしたくないNATOは、ウクライナの国内だけの戦争にとどめておきたいので、外形的に専守防衛の戦争になっているだけです。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、腹の中では、クリミアも含めて、奪われたところまで取り返しに行く、そのためにはクレムリンを攻撃したいという思いはすごく強い、と思います。だけど、NATOの要望を聞かざるをえない。ただ、モスクワを攻撃し始めたりしていますね。F-16を持ったら、将来的にはわからない。

塩田:日本の安全保障という点では、経済安保への取り組みも重要だと思います。

前原:3文書は非常に狭い防衛に限った取り組みですが、経済安保は広い意味での安全保障、防衛で、密接に結びついている問題です。私は経済安保、エネルギー、食料といった分野まで広げて考えるべきだと思います。

日本の武器・弾薬は1週間とか10日ぐらいしか持たないと言われている。造り続ける能力も必要ですけど、仮に武器・弾薬が十分だったとしても、島国の日本が経済封鎖され、食料やエネルギーが入ってこなくなったら、すぐにお手上げです。

私は国会で「戦闘機の自国生産」を言い続けてきましたが、ようやくイタリア、イギリスと共同開発することになった。生産能力を高めることはすごく大事で、特にコロナ禍でサプライチェーンの海外移転による日本の空洞化を目の当たりにした。一定程度の自国生産は必要と思います。

幸か不幸か、世界最大の半導体受託製造企業であるTSMC(台湾積体電路製造)が日本に来る。サムスンも日本で生産することになる。非常にいい状況になっています。日本の企業でなくてもいい。日本の中に生産拠点があり、サプライチェーンが切れない状況を作る。エネルギーも食料も含めて、しっかりやることが大事だと思いますね。

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