DV疑惑晴れたジョニー・デップ叩くメディアの罪 女性が嘘をついていたことを認めようとしない

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そのこと自体はそこまで責められない。『People』がハードを表紙に掲載したのは「#MeToo」が起こる1年半前のことだが、有名な男性からDV被害を受けたと女性が言ってきたなら、ニュースとして取り上げはするだろう。The Washington Postの場合は詰めが甘かったというところだ。

だが、裁判が終わった今、彼らは、「論議を呼ぶ判決」などという言葉を使って自分たちの間違いから目を背けるのではなく、デップに謝罪し、事実をきちんと報道すべきである。それは「#MeToo」から後戻りすることでも、女性を信じないことでもない。

最近の風潮を過剰に考慮?

もうひとつ、デップとハードの裁判は大きな話題になったものの、皆が実際にきちんと見ていたわけではないことも、少しは関係しているかもしれない。かいつまんでニュースを見ただけだと、「実際のところはどうなのか」と思い、最近の風潮を考慮したうえで、用心して中立でいようと思うのかもしれない。だが、それはデップに対してフェアじゃない。

デップと同じフロアに住み、ハードの主張が嘘だと知っているデップの長年の友人は、証言の途中、「彼女には自分のやったことの責任を取って、前に進んでほしいです。このことのせいでジョニーの家族はひどい打撃を受けました。これはフェアじゃありません。間違っています。彼女のやったことのせいで多くの人が影響を受けたのです。狂っています」と言って、涙を流した。

判決に不満で控訴をしていたハードは、昨年末、デップに100万ドルを払ってこの件を終わらせることに合意し、嫌々ながらとはいえ、一応、責任を取った形だ。今は娘を連れてスペインに移住したようで、とりあえず前に進んだともいえる。そんな中、アメリカの主要メディアだけが、責任も取らず、前にも進まないでいる。

そして、物議のないところに、勝手に物議を醸しているのだ。裁判をずっと見てきた人の間でメインストリームのメディアはすでに信頼を失っているが、自分たちのエゴに気づかなければ、今後もますます自分たちの首を絞めていくだけだろう。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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