学校裁量の大中小は私が区分した目安にすぎないので、読者には多少異論はあるかもしれないが、こうして見ると、学校ごとに工夫できる領域はそれなりにあることに気づく。学校の働き方改革では、とりわけ校長の役割は大きいし、そうした校長を登用、監督する教育委員会の役割も重大だということに気づかれることだろう。
第2に、保護者の反対があるかもしれない教育活動等にもメスを入れていく必要性が高いことだ。図中の「保護者の関心」という欄は、私の主観的な部分もあるが、比較的保護者の関心の高い領域かどうかの目安を示した。これまでの学校の働き方改革の多くは、会議の見直しや事務の効率化、サポートスタッフらによる支援など、保護者の関心が低い領域が多かったのではないか。言い換えれば、保護者の中で賛否両論がある活動、業務には踏み込みにくかった。この点、学校行事の見直しは例外的だが、感染症対策の影響で短縮が進んだ側面も大きいだろう。
今後は保護者や地域との合意形成を図っていくこと、保護者なども味方になってもらって学校の負担軽減を進めていくことが望まれる。先生が睡眠不足ではいい授業にならないし、子どもにもついついキツく当たってしまうこともある。教員人気が下がれば、優秀な人が来ない。先生が忙しすぎる現実が続くのは、保護者にとっても望ましい事態とは言えないし、他人事にもできない(私も5人の子どもを持つ父親としてもそう実感している)。
第3に、文科省をはじめ国の役割もやはり大きいことは強調しておきたい。というのも、図中の「割合」という欄に示したが、1日のうち大きな比重を占めるところとして、国が関わっていることは多い。学習指導要領が改訂されるたびに授業時数が増え、教科書も分厚くなっている。これでは授業やその準備に時間がそうとうかかるのは当たり前である。今の教職員定数の決め方は、担当する授業が増えても、教職員数が増えるような計算式にはなっていない。まったく考慮されていない、と言ってもいい。
教員の一日のうち、授業関連に次いでかなり比重が高いのは、給食指導や掃除の時間、休み時間の見守りなど、調査で「生徒指導(集団)」となっている領域だ。これらは教員免許が必要な業務ではないので、教員以外が担ってもいい。実際、県庁や市役所では掃除は外部委託のところが多いと思う。こうした問題に、国はほとんど沈黙してきたし、各自治体も必要な予算措置をしてこなかった。
「働き方改革では教員の意識改革が大事だ」と言う教育委員会は多い。もちろん、もっと個々人の意識づけや仕事の仕方で工夫できる余地はあろう。だが、個々人の意識や自助努力だけの問題では決してない。国や自治体の制度や予算措置の問題も大きい。こうしたことも、実態調査から見えてくる(前回の調査でもわかっていたことだが)。
以上3点は、今後の働き方改革に向けて最重要な課題、テーマと言える。くれぐれも、学校も教育委員会も文科省も、やみくもにメスを入れようとしないでほしい。また、手術が必要なほど重傷なのに、ばんそうこうで済ませようとしてもいけない。
(注記のない写真:Graphs / PIXTA)
執筆:教育研究家 妹尾昌俊
東洋経済education × ICT編集部
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