大ブレイク後、ますます多忙となると、そのラジオ番組は卒業したものの、今度は、テレビのレギュラー番組の話がいくつも舞い込んできた。どれも名前の知られた人気番組ばかりだ。しかし、迷うことなく、aikoはこれを断った。
「ラジオもテレビも楽しかったけど、やっぱり音楽だけでよかったんです。今もそうだけど、歌手でいたい気持ちが強すぎるから」
ソロアーティストとして自作の曲を作り、ツアーでそれを歌い続けることは、彼女の人生の軸であり、最たる幸せであり続けている。
「まだ到達できないことが多すぎる」
音楽活動以外は行わないアーティストはたくさんいるが、aikoのようにデビュー当時から、歌手としてのスタンスも活動のペースも変えずに長らく走り続けている人は稀有だ。
たとえば、デビュー同期のアーティスト。椎名林檎は、ソロアーティストとしての活動の他、東京事変としての活動や他者のプロデュースに積極的に関わるなど、さまざまな角度から音楽と向き合ってきた。同じく同期の宇多田ヒカルは、人間活動と称して、音楽とは距離をとる期間を設けたり、住む場所やライフスタイルを変えて、緩急つけながら音楽と付き合っているように見える。そして2人とも、結婚や離婚、出産、子育てなど、ライフステージを変化させながら、音楽家としても進化してきた。
それは、アーティスト以外の職業の人間から見ても、自然な歩みのように思える。一人の人間の中で、常に仕事と私生活は両輪としてあり、影響を与え合いながら、エネルギーを補給し合いながら、前進していくもの。どれほどその仕事を大切にしていても、天職であったとしても、年齢や経験を重ねて、自身も環境も変化する中、同じスタンスやスピードで走り続けるのは難しいからだ。
aikoにも私生活はあるが、25年もの間、音楽に集中してかけた時間と心身のエネルギー量は並外れている。
「私は、ずっと一人で歌うのが夢だったし、そこでまだ到達できないことが多すぎるから。新しいことをやってみたいと思わないんです。それに、スタンスを変えて、今のペースで走れなくなるのも怖い。私は、強烈な不安症だから、このやり方しかわからないんです。
(椎名)林檎も音楽を続けながら子供を育てていて、宇多田ちゃんもそう。彼女たちの人生が変化していくのを見て、羨ましいなって思うところもあったんですよ。でも、自分のこととなると、思いつかへんかったなぁ。それより、曲を作らないとっていう危機感が強かった」
そう語るaikoも、2020年に結婚した。変わらぬ思いを抱き続けていても、前に進めば、出会いや別れは訪れ、見える景色も変わっていく。
(次回、中編記事は5月25日に掲載します)
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