デビュー25年、歌手aikoが「まだ序盤」と語る真意 「まだ到達できないことが多すぎる」(前編)

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大ブレイク後、ますます多忙となると、そのラジオ番組は卒業したものの、今度は、テレビのレギュラー番組の話がいくつも舞い込んできた。どれも名前の知られた人気番組ばかりだ。しかし、迷うことなく、aikoはこれを断った。

「ラジオもテレビも楽しかったけど、やっぱり音楽だけでよかったんです。今もそうだけど、歌手でいたい気持ちが強すぎるから」

ソロアーティストとして自作の曲を作り、ツアーでそれを歌い続けることは、彼女の人生の軸であり、最たる幸せであり続けている。

「まだ到達できないことが多すぎる」

音楽活動以外は行わないアーティストはたくさんいるが、aikoのようにデビュー当時から、歌手としてのスタンスも活動のペースも変えずに長らく走り続けている人は稀有だ。

たとえば、デビュー同期のアーティスト。椎名林檎は、ソロアーティストとしての活動の他、東京事変としての活動や他者のプロデュースに積極的に関わるなど、さまざまな角度から音楽と向き合ってきた。同じく同期の宇多田ヒカルは、人間活動と称して、音楽とは距離をとる期間を設けたり、住む場所やライフスタイルを変えて、緩急つけながら音楽と付き合っているように見える。そして2人とも、結婚や離婚、出産、子育てなど、ライフステージを変化させながら、音楽家としても進化してきた。

それは、アーティスト以外の職業の人間から見ても、自然な歩みのように思える。一人の人間の中で、常に仕事と私生活は両輪としてあり、影響を与え合いながら、エネルギーを補給し合いながら、前進していくもの。どれほどその仕事を大切にしていても、天職であったとしても、年齢や経験を重ねて、自身も環境も変化する中、同じスタンスやスピードで走り続けるのは難しいからだ。

aikoにも私生活はあるが、25年もの間、音楽に集中してかけた時間と心身のエネルギー量は並外れている。

「私は、ずっと一人で歌うのが夢だったし、そこでまだ到達できないことが多すぎるから。新しいことをやってみたいと思わないんです。それに、スタンスを変えて、今のペースで走れなくなるのも怖い。私は、強烈な不安症だから、このやり方しかわからないんです。

(椎名)林檎も音楽を続けながら子供を育てていて、宇多田ちゃんもそう。彼女たちの人生が変化していくのを見て、羨ましいなって思うところもあったんですよ。でも、自分のこととなると、思いつかへんかったなぁ。それより、曲を作らないとっていう危機感が強かった」

そう語るaikoも、2020年に結婚した。変わらぬ思いを抱き続けていても、前に進めば、出会いや別れは訪れ、見える景色も変わっていく。

(次回、中編記事は5月25日に掲載します)

芳麗さんによる連載8回目です
芳麗 文筆家、インタビュアー

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よしれい / Yoshirei

NHK山形放送局のキャスター業を経て文筆業に。女性の生き方をメインテーマに、雑誌、書籍、Webなど数多くの媒体で執筆。人物を掘り下げたロングインタビューを数多く手がけるほか、恋と愛、生活、カルチャーなどにまつわるコラムも好評。著書に『3000人にインタビューして気づいた! 相手も自分も気持ちよくなる秘訣』(すばる舎)、『ラブ・リノベーション』(主婦の友社)など。音声番組Voicy「芳麗の女と文化の話café」では、本連載に登場した方々とのリラックストークも。日々の生活や取材活動から、生きづらい時代を“幸せに生きるヒント”を多面的に探究して発信中。HPはこちら

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