
桐野夏生(きりの・なつお)/作家。1951年生まれ。99年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、04年『残虐記』で柴田錬三郎賞、08年『東京島』で谷崎潤一郎賞、11年『ナニカアル』で読売文学賞、『燕は戻ってこない』は22年度の毎日芸術賞と23年の吉川英治文学賞を受賞。21年から日本ペンクラブ会長。(撮影:尾形文繁)
時はバブルに沸く1980年代後半。証券会社に入社した2人の女性は、「金がすべて」の狂乱の時代に巻き込まれていく。著者が小説の設定としてバブル時代を描くのは初めてだ。
──80年代のバブル時代を描こうと思ったのはなぜですか。
私も長く生きていますから、バブル時代は確かに経験したはずですが、私の暮らしの中では実感のないままに過ぎていった感があります。けれども、あのときに何か醜いものが露呈したような、そういう認識があります。バブルはこれまで書いたことがなく、何が起きたのか、振り返ってみようというのが契機です。
──バブルの恩恵はなかった?
まったくなかったです。80年代後半は子どもが保育園から小学校に上がるときで、子育てのさなかでした。赤ちゃん雑誌のライターなどをしていましたが、大して仕事もなく、私の生活圏とは別のどこかで、みんなが騒いでいるような感じでしたね。私には不遇感のほうが強かったです。バブルは全然、縁がないものでした。
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