定まらない花王の戦略、問われるトップの決断力 値上げを掲げる一方でキャンペーン値引きも

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三菱UFJモルガン・スタンレー証券の佐藤和佳子シニアアナリストは「(大手企業の)機能面の高さは評価できるが、高価格帯の商品ではブランドの世界観やコンセプトに共感してもらうストーリー付けも必要。そうした点では、花王含めた大手が軒並み新興企業に負けている」と分析する。

つまり、コロナ影響だけではなく、価格戦略や商品戦略が不発なことも業績低迷にもつながっている。さすがに追い込まれたようで、2023年2月の決算説明会で長谷部社長は不採算な事業やブランドからの撤退を明言している。

だが、それもインパクトはいま一つ。新たな指標を導入し、個別事業の採算性を洗い出すという程度で、現時点ではまだ不採算事業の詳細な分析ができていない。

具体的にはこれまで20年以上、資本コストを上回る利益をどれほど生み出したかを測るEVA(経済的付加価値)を重要視してきたが、それでは事業ごとの分析ができず、他社の事業との比較もできない。そのため、2023年から、事業ごとに投じた資本で創出した利益を表す事業別ROIC(投下資本利益率)を導入すると打ち出した。

体質が抜本的に変わるのか

2023年3月より代表取締役専務執行役員に就任し、改革を担う根来昌一氏は「ROIC導入で日々のマネジメントにおいて資本効率を改善していく。2023年は在庫の抑制や不要な設備投資を削減するなどで、資本コストを抑えEVAを改善させる」と説明する。だが、業界関係者からは「それで花王の体質が抜本的に変わるとは思えない」と声が上がる。

佐藤アナリストは「他社の同様の事業と比較できる点でROICの導入には期待している。だが花王の業績が停滞している本質的な理由は、効率性を重視しすぎて、海外を中心としたM&Aを積極的に行わなかったことではないか。自社株買いも盛んに実施しているが、その資金で次の成長に向けた大型の買収も可能だっただろう」と指摘する。

花王は2020年に発表した中期経営計画で、2025年に売上高1.8兆円、営業利益2500億円を掲げている。だが、足元の2022年度の営業利益は前期比23%減の1101億円と目標からは一段と遠ざかった。

減益続きというだけでなく、営業利益に至っては、2018年から5期連続で業績予想の未達が続いている。しかも、2022年度は中間期時点で業績予想を1450億円(前期比1%増)に下方修正したものの、通期の着地はそれを約350億円も下回る結果となった。2022年度の実績が予想から大きく乖離したため、「経営責任を明確にするため」、長谷部社長は2023年4月から3カ月間、月額基本報酬の30%を自主返納する。

市場評価も厳しく2020年の初めに8000円台だった株価も、いまや5000円台まで落ち込んでいる。業績低迷が続く中で不採算事業やブランドの撤退を実行し、今後、反転攻勢の兆しを示せるのか。2021年から陣頭指揮をとる長谷部社長のリーダーシップが問われることになりそうだ。

伊藤 退助 東洋経済 記者

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いとう たいすけ / Taisuke Ito

日用品業界を担当し、ドラッグストアを真剣な面持ちで歩き回っている。大学時代にはドイツのケルン大学に留学、ドイツ関係のアルバイトも。趣味は水泳と音楽鑑賞。

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