公立中高一貫校の「国際バカロレア教育」、気になる「授業と進路選択」の実態 「札幌開成中等教育学校」卒業生にも聞いてみた
進学実績にも表れている「課題探究的な学習」の成果
IB教育の成果は、国内大学の進学実績にも表れている。受験対策の特別授業などは実施していないにもかかわらず、2020年度は卒業生156人のうち78人が、21年度は卒業生155人のうち101人が国公立大学に進学した。旧帝大クラスの大学も多く含まれるという。また、20年度は大学進学者全体の39%、21年度は31%が総合型選抜や学校推薦型選抜で受験をして進学をかなえた。国公立大学や推薦に強い傾向について、西村氏はこう分析する。
「本校は『大学受験も1つの課題探究であり、生徒自身が主体的に取り組むもの』というスタンスの学校です。ですから、6年間大学受験に偏した学習ではなく、日常の学びをいかに楽しく探究的に実践できるかということとATLスキルの伸長に注力しています。そのため生徒たちは学習方法を身に付けることで、大学受験の際もみんな自分で計画的に取り組める。その結果が進学実績にも表れていると捉えています。推薦を選ぶ生徒が多いのも、特別な準備をせずとも、6年間の蓄積した学習ポートフォリオからいくらでも面接で話せることがあり、小論文やプレゼンテーションも堂々とできるからだと思います」
また、多くの生徒は自分が何をしたいのか明確だという。それはどこまでも「学習者中心」を大切にしているからだろう。同校では、進路指導も教員主導では行わない。「自分プレゼン」と称して、生徒自身が自分のキャリアの見通しやそれを実現するための方策を親と教員にプレゼンテーションする機会を設けているが、進学についてはその際に生徒が自ら模試データなどを分析し、志望大学を選んだ理由や学習計画などを伝える。「多くの生徒が、大学名で選ぶというよりは、その大学のどの分野を専門とすれば、将来に生かせるのかという視点から進学先を選んでいますね」と、西村氏は言う。
日常の学びが生徒の成長やそれぞれの進路選択にダイレクトにつながっている同校だが、課題もある。外国籍の教員が9名いるが、そうした人材も確保が困難であるほか、公立校は人事異動で人が入れ替わるため、培われてきたIBの授業づくりのノウハウの継承は大変な面があると西村氏は明かす。
「一方で、IBは世界標準のプログラムなので、異動されてきた先生も新たな視点と共に取り組みをスタートしやすく、継続もしやすい。IBを通じて中学校籍の先生と高校籍の先生が協働しやすくなるメリットも感じています。本校は札幌市立学校の課題探究的な学習のモデル校として位置づけられており、市内の約300の小・中・高等学校にも実践を広める使命があります。IBの導入の肝である先生方のマインドセットの変革を促進し、ほかの学校でもできる実践をさらに蓄積したいと考えています」
(文:國貞文隆、編集部 佐藤ちひろ、注記のない写真:札幌市立札幌開成中等教育学校提供)
東洋経済education × ICT編集部
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