コロナ禍でも増加傾向、海外の大学への進学率

新型コロナウイルスの影響で海外渡航に制限がかかり、多くの生徒たちの海外留学の機会は奪われた。そんな状況下でありながら、留学ではなく、日本から海外の大学への進学率は増加傾向にある。多くの学校では、毎年6月頃に、英国や米国などの海外の大学への合格実績が公表される。

早くも、私立中高一貫校の中で最も多くの海外大学合格者数を輩出する広尾学園高等学校の数値が発表された。20年度、広尾学園高等学校では、昨年度の79名から大きく3桁に数字を上げ212名が海外大学に合格している。(2021年5月7日時点)

公立の学校においても、数字の伸びは顕著だ。東京都立国際高等学校からは20年度、88名が海外大学に合格した。また、従来国内進学を有利としてきた私立校でも、増加傾向が見られる。20年度、渋谷教育学園では、渋谷教育学園渋谷高等学校で27名、渋谷教育学園幕張高等学校で30名が海外大学に合格。歴代の進学先には、イェール大学、ロンドン大学、ボストン大学、UCLA、北京大学など、錚々たる海外名門校が名を連ねており、海外名門大学への進学実績を上げていることがうかがえる。最近では、開成高等学校も海外難関大学の合格者を飛躍的に増やしており、19年度には合格者36名、進学者数10名と過去最高レベルを記録しているほどだ。

だが、そもそも海外大学への進学は、インターナショナルスクールの専売特許ではなかったか。いったい、インターナショナルスクール、そして日本の高等学校で何が起きているのだろう。そもそも、インターナショナルスクールは外国人駐在員の子どもたちに向けた学校であり、学費が年間で250万円前後と高額なこともあって、通っている日本人の割合は少なかった。通うとすれば海外志向の強い、ごく限られた層だったように思う。しかし、最近は少し変わりつつあるようだ。国際教育評論家であり、「インターナショナルスクールタイムズ」の編集長である村田学さんは語る。

安い学費で通えるインターナショナルスクールも登場

「かつて、インターナショナルスクールといえば、とにかく学費が高い、通っている人は少ない。学校の中の様子がなかなか見えてこず、謎に包まれた印象だったと思います。しかし、早期英語教育の需要の高まりを受けて、新興のインターナショナルスクールが次々と開校した結果、安い学費で通える学校も出てきました」

例えば、と例に挙げてくれたのは、八王子にある東京ウエストインターナショナルスクール。学費は施設費を合わせて年間で約152万円ほどだ。さらに、と村田さんは続ける。

「無宗教であり、日本人の生徒もターゲットとしています。日本人が英語と日本語でどのように学ぶかというカリキュラムに力を入れている学校ともいえますね。また、19年に開校した広島叡智学園中学校・高等学校は、西日本では初めてとなる公立の国際バカロレア認定校であり、英語で学べる全寮制の学校です。このように新興のインターナショナルスクールによる学費の値下がりや、地方自治体や国などの公的な機関が介入し、海外大学への進学を視野に入れた新しい学校が誕生することで、今までは限られた人しか入ることのできなかったインターナショナルスクールや、海外大学への進学が身近になったのではないでしょうか」

確かに、一条校を除き、多くのインターナショナルスクールは文部科学省の管轄外だ。だが実際は、新興のインターナショナルスクールに対して、教育委員会の指導が入るなど、無視できない存在であることは間違いない。制度として不安定な部分はあるものの、インターナショナルスクールを取り巻く状況や学生のニーズの変化は、確実に日本の教育機関にも大きなうねりとなって押し寄せ、変革をもたらしている。

その結果として、海外の大学への進学熱が高まり、一般的な日本の高等学校までそれが波及している、と村田さんはみている。

「かつてはインターナショナルスクールのみに開かれていた海外大学への進学ルートが、国際バカロレア認定校を始め、広く開かれるようになりました」

海外の大学への進学はこの先も増えていくだろう、と語る村田さん。
(撮影:今井康一)

「国際バカロレア認定を取得した日本の高等学校から、海外の大学に行く生徒の割合も年々増えていますね。また、国際バカロレア認定を取得していない学校でも、海外進学を目指した進路指導に力をいれる学校が増えています。例えば、14年に鳥取県に開校した青翔開智(せいしょうかいち)中学校・高等学校の1期生では4名、2期生で10名の卒業生が海外の大学に進学しています。かつては、海外の大学のアドミッションはインターナショナルスクール卒業生を主な対象としていましたが、13年に文科省の提言で閣議決定された『IB(国際バカロレア)200校計画』が教育現場全体に大きなインパクトを与えました」

それに伴い、旅行代理店では高校生が海外の大学のキャンパスツアーに参加できる企画が続々と発売されるなど、海外の大学で学ぶことを現実的に考えられる高校生が格段に増えた。

結果としてインターナショナルスクールではない、一般的な日本の高等学校においても、英語力はもちろんのこと、探求的に学ぶ力を育てる学習指導や、ボランティアの仕組みづくり、さらには海外の大学を卒業した後のキャリアパスの描き方まで一緒に考え、手厚くサポートするという風に変わってきたのだ。英語で内申書を書くだけではなく、先生たちの指導もより複雑になっている。

ケンブリッジ国際認定と、国際バカロレア認定の違いとは

そもそも、世界で通用する大学出願資格として存在しているものは2つある。1つは、1858年にイギリスにて誕生したケンブリッジ大学国際教育機構認定(以下、ケンブリッジ国際認定)、もう1つは1968年に国連が中心になって立ち上げたのが国際バカロレア認定(以下、国際バカロレア認定)だ。日本国内ではあまり耳慣れないケンブリッジ認定校だが、世界的にはケンブリッジ国際認定校の数は約1万校、国際バカロレア認定校の数は5400校といわれている。この2つのカリキュラムの大きな違いは何だろうか。

「私が20年に調べたところでは、日本国内でのケンブリッジ国際認定校は11校、国際バカロレア認定校は159校でした。大学受験という観点からいいますと、ケンブリッジ国際認定校では科目とテーマを選んで大学受験に使うことができます。つまり、不得意科目を大学受験で使わなくてよいというメリットがあります。一方、国際バカロレア認定はより探求的な学びを求められ、アートや奉仕活動といった、学科以外の項目も大学受験の審査に必要になってきます」

日本では、国際バカロレア認定が主流となりつつあるが、それでは日本の国際バカロレア認定校で学ぶのと、インターナショナルスクールで学ぶのとでは、何が違うのか。例えばICTにおいてはどうだろう。それについては明確な違いがありますと、村田さんは語った。

インターナショナルスクールでの、ICT活用の取り組みは?

「インターナショナルスクールでは、情報のインプットに関しては、ICTよりもリアルな体験を学びの土台に置いている学校が多いです。例えば、子どもたちが触れる絵本。これは、あえて紙の本を使い、手触りや質感を楽しみ、物語を一緒に読むという行動そのものを学びとしています。中高生になって『American History』を読む際にも、図鑑のように分厚い書物を使い学びます。一方、アウトプットとしては、プリスクールの年長クラスからiPadを使ったスクラッチを取り入れて、プログラミングを行うなど、低年齢からICTを取り入れるケースが多いですね。小学校低学年にもなれば、子どもたちはキーボードで文章を作成し、日記などのアウトプットも、デジタルツールで行うことが多くなります」

全体的には幼児・小学生は紙がメインで、デジタルはあくまで副教材として適宜ICTを取り入れている場合が多いそうだ。より学びが進み、テーマ学習になると、紙からデジタルへの移行が進む。また、日本の学校との大きな差として、リポートや宿題の提出をPCで行うことが挙げられると語る村田さん。

「日本ではタブレットが1人1台配布されても、持ち帰りは不可の場合が多いですよね。インターナショナルスクールでは授業中だけではなく、各生徒が機器を持ち帰って、宿題もPCで行います。デジタル機器との接し方の違いはあるかもしれませんね」

そのほかには、アートを重視したり、自然との関わりや、情操教育を大切にしているのもインターナショナルスクールの特徴だ。STEAM教育もその情操教育の延長線上にあるという。

「ミュージカルのクラスや、油絵から派生したICTを活用したデジタルアートの取り組み、音楽プログラムを作成するDJの授業などもありますね。そのスキルを音楽として、きちんと評価する基準があり、例えばTiKToKもパフォーミングアートとして認めます。時代の変化に応じて、柔軟にカリキュラムを変えていけるのがインターナショナルスクールの強みなのかもしれません」

インターナショナルスクールの台頭に加えて、私立校で国際バカロレア認定を取得する学校も出てきており、日本人の高校生にとっては多様な学びの機会が広がっていることは間違いない。日本の学校もまた大きなうねりの中で変化し続けるだろう。この先も海外の大学への進学熱は冷めることなく続いていくのか。ユニークな取り組みが行われているインターナショナルスクールを見ることで、その行く末が予測できるかもしれない。一人ひとりの個性を最大限に引き出して伸ばす教育のあり方としても、インターナショナルスクールの取り組みは1つの参考になりそうだ。

村田学(むらた・まなぶ)
国際教育評論家、「ieNEXT」編集長、「インターナショナルスクールタイムズ」編集長。米カリフォルニア州トーランス生まれ。人生初めての学校である幼稚園をわずか2日半で退学になった「爆速退学」の学歴からスタート。帰国後、千葉・埼玉・東京の公立小中高を卒業し、大学では会計学を専攻。帰国子女として、日本の公立学校に通いながら、インターナショナルスクールの教育について興味を持つ。2012年4月に国際教育メディアである「インターナショナルスクールタイムズ」を創刊し、編集長に就任。その後、都内のインターナショナルスクールの理事長に就任し、学校経営の実務を積む。その後、教育系ベンチャー企業の役員に就任、教育NPOの監事、複数の教育系企業の経営に携わりながら、国際教育評論家およびインターナショナルスクールの経営とメディア、新規プロジェクトの開発を受注するセブンシーズキャピタルホールディングスの代表取締役CEOを務める
(撮影:今井康一)

(注記のない写真はiStock)