公立中高一貫校の「国際バカロレア教育」、気になる「授業と進路選択」の実態 「札幌開成中等教育学校」卒業生にも聞いてみた
IBの大きな特徴は、「学習者中心」である点だ。教員主導の下で全員がそろって1つの目標に向かうのではなく、どの教科も生徒たちが各課題に対し試行錯誤して自分たちなりのアプローチで取り組んでいくというが、同校では実際どのような授業を行っているのか。
「授業は単位制で、各教科1コマ100分。主に導入、活動、振り返りの構成になっています。活動は例えば、音楽の授業では『人はなぜ歌うのか』をテーマに複数の角度から考察してレポートにまとめる、あるいは英語では『海外旅行客向けにおすすめの市内観光スポット』を伝えるチラシを作るなどの取り組みが展開されます。全教科においてレポートやプレゼンテーションなどの成果物を通して評価しており、定期テストはありません。知識を問うのではなく、知識をどう活用するかに重きを置いているのです」

そのため教員は、知識を一方的に詰め込むのではなく、生徒たちの「ATL(Approaches to learning)スキル(コミュニケーションスキル、ソーシャルスキル、自己管理スキル、リサーチスキル、思考スキル)」の向上を重視した授業づくりに力を入れている。その結果、生徒たちは「学習の方法」がしっかりと身に付いていくという。

「とくに思考力の向上は明らかで、表現力も非常に高くなっていますね。ちなみに1年生の段階から年間20~30本のレポートを書き、引用や参考文献の書き方も学ぶため、卒業生は『大学の授業が非常に楽です』なんてことも言っています」
メルボルン大学で学ぶ卒業生が語る「IB教育」のリアル
同校の1学年は160人。1~4年生(中1~高1に当たる学年)は全員がMYPを履修し、5~6年生(高2~高3に当たる学年)はDPか同校オリジナルのIP(Inquiry Programme、探究プログラム)のどちらかを選択する。
IPはMYPの手法に基づいたコースで、課題探究型の100分授業が引き続き行われるが、単位制を生かした時間管理がしやすいこともあり、国内大学への進学希望者や部活動などやりたいことを大切にする生徒が多いという。
一方、DPは大学1~2年生で学ぶ範囲まで踏み込む高度な内容で、100分授業が1日4コマ(8時40分~16時40分まで)あり、英語を使う機会も学習量もIPより圧倒的に多い。さらに論文を書き、CAS(キャス、※3)と呼ばれる活動への参加も求められる。負担が大きいこともあり履修する生徒は毎年10人程度だが、西村氏はこう語る。
※3 Creativity,Activity,Serviceの略。他者や社会とのつながりを意識した校内外で行う創造的活動・身体的活動・奉仕活動
「求められる学習の質と量共に厳しさがあるのは事実ですが、意外にもDPを履修する生徒たちは、難しいことに挑戦することにやりがいと喜びを感じており、純粋に学習が好きな生徒が少なくありません。海外大学進学を希望している子が多いですが、単に大学入学資格が欲しいというよりも、人間としての成長を求める志が高い生徒が何人もいます」