そもそも、日本が対話・交渉をいつまでも長引かせる傾向があるからという理由で、米通商代表部 (USTR) が日本をTPPに参加させることに反対したのは、実に皮肉なことだった。TPP交渉の妥結の瀬戸際となった現時点でグズグズしているのは、安倍首相ではない。むしろ米国の方だ。米国こそが「機能不全を起こした参加国」との様相を呈している。
日本にとって、TPPが重要な戦略的利益を生むことは明らか。安倍首相は、日本が大国の座からすべり落ちることを回避しようと躍起になっている。特に、中国が急速に台頭するなかで、大国としての地位を守ろうと努力している。アベノミクスの第3の矢である構造改革は、TPPを待望しており、TPPが実現しなければ、日本にとって深刻な打撃となる。
──安倍政権はTPPをそのような戦略的観点から見ているのか。
日本はTPP交渉の過程で、自国の経済成長を模索する一方、日米同盟の強化を模索してきた。しかし、日本は十分な安心感を得られていない。尖閣諸島について日本が感じている不安を考えてみるといい。南シナ海における中国との紛争が激化しており、米国が日本に十分にコミットするのか、警戒している。
どのような同盟関係でも、たいてい不安要素があるものだが、この件に関しては、日本がきわめて強い不安を抱いている。このため、オバマ大統領は昨年、日本との安全保障条約の第5条は尖閣諸島に適用されることをはっきり明言してみせた。
──先ほどの発言について確認しておきたいのだが、米国の貿易交渉に携わる人々は、はじめ日本をTPPに参加させたくなかったのか。
USTRの法律専門家は、日本を第1の利害関係者にしたくないと考えていた。なぜならば、日本は交渉を長引かせるだけで、妥結しないだろうとの予測からだ。そのため、第1ラウンドで小グループを作った後、第2ラウンドになってから日本を参加させるというものだった。
TPPに失敗すればヨーロッパ政策にも波及
米国は2016年に大統領選を迎える。どちらの党が勝利するにせよ、新大統領は、TPPの成立いかんによって、巨大な利益をもってスタートするか、巨大な損失をもってスタートするか、どちらかになる。
TPPは文明社会の究極目的ではない。しかし、米国政府はTPPを貿易自由化のための唯一のイニシアティブであるとしている。TPPで失敗すれば、我々はヨーロッパでイニシアティブを握ることもできないだろう。
TPPが成立しなければ、米国がアジア地域においてバランスを取り戻す戦略は、骨抜きになってしまうだろう。
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