『安倍晋三 回顧録』が出版された。安倍首相退陣後から1年間、テレビでもおなじみの橋本五郎ら読売新聞の政治記者が18回にわたってインタビューした36時間の記録である。
発売前から話題となり、店頭でもなかなか手に入らないほどだ(本稿執筆時点)。ここではオーラルヒストリーという学問的な聞き取りを手掛けてきた立場から、取扱説明書の要領で本書の魅力を紹介したい。
政治家に対するオーラルヒストリーでは、聞き手の先入観にはない転機や人脈が浮かび上がることがあるので、政治家になる前からのライフヒストリーをなるべく自由に話してもらうことが多い。
その点、本書は回顧録とはいいながら、政権期(第1次政権も含む)の主要なトピックについて個別に聞いていくスタイルを採る。安倍晋三やその時代を読み替えるというよりも、「あの決定の裏側」が明かされることがこのスタイルの旨味だ。
また、緊張感を保って事実を語ってもらうため、オーラルヒストリーでは対象者と距離を保つことに腐心する。対して、本書のインタビュアーは顔見知りの政治記者だ。「モリカケ」や「桜を見る会」といった問題への質問もきちんとなされているとはいえ、自慢や自己弁護が多いことは致し方ない。
どこまでが生の声なのか疑問符が付く記述も
加えて、国家安全保障局長などを務めて安倍を支えた官邸官僚の一人・北村滋が、事前の準備、本人との打ち合わせ、そして原稿の監修まで行っている。
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読み頂けます。
登録は簡単3ステップ
東洋経済のオリジナル記事1,000本以上が読み放題
おすすめ情報をメルマガでお届け
無料会員登録はこちら
ログインはこちら