[Book Review 今週のラインナップ]
・『ゲノム編集の世紀 「クリスパー革命」は人類をどこまで変えるのか』
・『デモクラシーの現在地 アメリカの断層から』
・『日本の戦略力 同盟の流儀とは何か』
評者・サイエンスライター 佐藤健太郎
世の中に科学技術と名のつくものは数あれど、世界に影響を与えるほどのものはごくわずかだ。2012年に登場した「ゲノム編集」という技術はその最たるもので、インパクトの大きさと影響範囲の広さで世界を震撼させた。「21世紀最大の科学の躍進」「神の技術」と評する者さえいる。
カギとなったのは、「CRISPR-Cas9」(クリスパーキャスナイン、以下クリスパー)というツールの登場だ。クリスパーは、DNA内の狙った1文字だけをピンポイントで書き換えることを可能にした。しかも従来技術に比べてはるかに安価で扱いやすい。まさしく分子生物学の革命であった。
21世紀の人類が手にした「神の技術」の歴史と展望
すでに多くの関連書籍が世に出されているが、本書は20年代初頭におけるこの分野の集成といえる内容だ。クリスパー発見の歴史と人間ドラマ、医療への応用と影響、特許をめぐる暗闘、未来への展望などが、当事者への綿密な取材を交えて描き出される。
ゲノム編集は食料の増産にもつながるし、新種の病原体によるバイオテロにも用いうる。まさにパンドラの箱だ。そればかりか、例えば先天的に異常のあるDNAを修復することによって、各種遺伝子疾患の治療も可能にする。だが、その影響は完全には読み切れず、予想外の結果を招くこともありうる。書き換えられた遺伝子はパートナーの遺伝子と混ざり合って、子々孫々に伝わるため、無害であると保証することは不可能なのだ。
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