[Book Review 今週のラインナップ]
・『暴力のエスノグラフィー 産業化された屠殺と視界の政治』
・『雇用か賃金か 日本の選択』
・『「断絶」のアメリカ、その境界線に住む ペンシルベニア州ヨークからの報告』
・『世界探検全集06 アマゾン探検記』
評者・北海道大学教授 橋本 努
米国オマハの牛肉加工場で、気鋭の政治学者が半年間働いたルポである。
2009年の1年間に、全米で85億羽以上の鶏、1億1360万匹の豚、3330万頭の牛が食肉に加工された。しかし現代の屠畜場は一般社会から見えない存在にされているため、私たちはふだん動物の死に心を痛めることはない。これに着目した著者は、工場でさまざまな仕事を経験・観察し、本書で詳述した。
政治学者が屠畜場に入り「視界の政治」を実践する
屠殺の実態が明らかになれば、人々は衝撃を受けるだろう。肉が売れなくなることを恐れ、食肉業界は反対するに違いない。実際、米国アイオワ州議会の下院は11年に、肉牛生産者協会などのロビイストの要請を受けて、 屠畜場を含む動物施設への立ち入り調査や記録を重罪とみなす法案を可決したという。
食肉工場が厳しい現場であるのは労働者たちにとっても同様だ。著者が働いた工場では、屠室での作業は121に分けられていた。うち6つが牛の命を奪う工程に分類されるが、直接関与する作業員は少数で、その現場はほかの作業員たちにも隠されている。
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