トヨタ社長交代、豊田章男氏に見た強烈な危機感 「私は古い人間」「クルマ屋の限界」発言を読み解く
そして、章男氏に対する社内外の批判も依然消えない。成功すればするほど、嫉妬的反発が出るのが世の習いだ。
独走する章男氏に対して、豊田家一族はじめ、社内の開発陣の間でも不満がくすぶっている。表面化してはいないが、油断はできない。
これ以上の長期政権化を避けるべく、章男氏は社長交代の準備を進めてきた。2020年4月から副社長職を廃止し、執行役員に一本化したのは、社長のバトンタッチを見据えてのことだ。
「副社長という階層をなくしたのは、次の世代に手渡しでタスキをつなぐためです。そのためには、私自身が次世代のリーダーたちと直接会話をし、一緒に悩む時間を増やさなければならない」
と、章男氏は語っていた。
復活させた副社長職の中に佐藤氏はいなかった
そして、一度廃止した、副社長職を復活させたのは、翌々年の2022年4月1日だ。11人の執行役員のうち、財務担当の近健太氏、技術担当の前田昌彦氏、人事担当の桑田正規氏の3人を副社長に引き上げた。「ポスト章男」の動きを本格化させた。
私は、3人の社長レースに章男氏の“秘蔵っ子”の佐藤氏が入っていないのが気になっていた。というのは、EVをガソリンエンジンにはない付加価値があるとし、レクサスのEV化を推進したのは彼である。水素エンジン車の開発も指揮した。佐藤氏は、「章男社長からは、“千本ノック”を受けています」と語っていた。
佐藤氏は、自他ともに認めるモータースポーツ好きだ。エンジニアとして主力車種の部品開発に携わり、のちに高級ブランド「レクサス」のプレジデントやスポーツカーブランド「GR」の責任者を務めた。エネルギッシュで明るい性格は、章男氏とも相性がいい。レースにも足しげく通い、記者会見では、章男氏と息の合ったところを見せてきた。
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