2%の物価安定目標の早期実現を盛り込んだ政府と日本銀行による共同声明の合意から、22日で10年を迎える。岸田文雄政権の浮揚や4月に発足する日銀の新体制をにらんだ見直し論が浮上しており、市場関係者は今後の金融政策の行方を占う試金石になるとみている。
「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日銀の政策連携について」と題した声明では、日銀が物価目標の「できるだけ早期」の実現、政府は成長戦略の推進と持続的な財政構造の確立という、それぞれの役割分担を明確にした。日銀は声明が発表された2013年1月22日、金融政策決定会合を開き、2%の物価安定目標の導入を決めた。
それから10年が経過し、日本経済も大きく変化した。総務省が20日発表した昨年12月の消費者物価指数は物価目標を大きく上回る4%に達し、デフレ脱却が視野に入った。岸田首相は3日、「アコード(共同声明)を見直すかどうかも含めて新しい日銀総裁と話をしなければならない」と声明を見直す可能性に言及した。
側近の木原誠二官房副長官は、昨年12月のブルームバーグとのインタビューで、日銀と「新たな合意を結ぶ可能性はあるものの、現在の合意内容と異なるものになるかどうかは分からない」との見方を示していた。
4月8日に任期満了を迎える黒田東彦日銀総裁は、大規模な金融緩和策の維持を決めた18日の記者会見で「2%の安定的・持続的達成が見通せる状況にない」と強調。市場機能の低下を踏まえて昨年12月に実施した運用見直し後も、長短金利を操作する現行のイールドカーブコントロール(YCC)政策を維持する姿勢を明確にした。
二つの変更ポイント
クレディ・スイス証券の塩野剛志日本経済調査部長は、共同声明について「日銀の政策を予想する上での一つの大きな要因だ」とし、「修正によって、より柔軟な政策運営が可能となり得る」とみる。
変更点として、市場が注目するのは主に二つ。2%の物価安定目標について「できるだけ早期に実現することを目指す」としている部分を中長期的な位置付けにすることと、2%の目標水準を「2%程度」や「1-3%」などのレンジにするとの見方だ。後者は日銀が物価安定目標自体の見直しを決める必要があるとみられる。
SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、「できるだけ早期に」との文言を削除して「急ぐというトーンを消すというのはあり得る」とみる。共同声明の見直しによって「YCCとマイナス金利政策の撤廃観測が強まる」ことで、円高や株安が加速する可能性があると指摘。「絶対やらなければいけないものではない。拙速にやってしまうことの方がリスクが高い」と述べた。
ブルームバーグが今月実施した調査では、エコノミスト43人のうち3分の2を占める27人が、政府・日銀が共同声明を見直す可能性について「非常に高い」、「高い」と回答している。
妥協の産物
共同声明は、デフレからの脱却を目指したアベノミクスで日銀による大胆な金融緩和を掲げた当時の安倍晋三首相の強い意向を反映している。白川方明前日銀総裁の下で理事として共同声明の策定に携わった門間一夫氏(みずほリサーチ&テクノロジーズ・エグゼクティブエコノミスト)は、「政治のアジェンダ設定の中で共同声明が生まれた」と振り返る。
門間氏は、妥協の産物である共同声明は十分に柔軟な文書になっており、現状のままでも「次の日銀総裁が今の金融政策運営を変えられないということはない」という。その上で、共同声明の見直しが意味を持つとすれば、10年たっても達成ができていない2%の物価目標自体の在り方について実質的・根本的な議論を行う場合のみだと語った。
白川前日銀総裁は今月、経済誌への投稿で「共同声明を現時点で性急に改定する必要性はないと思っており、さらに言えば、不安も覚える」とし、「内外の議論の進展を待つ、つまり熟成を待つ方が賢明だ」との考えを示した。
共同声明の発表時に経済再生相だった自民党の甘利明前幹事長は20日、ブルームバーグのインタビューで、「デフレを脱却していくことは一丁目一番地として共有しなければならない」と述べ、日銀の新総裁との間で新たな表現を盛り込むとしても、中身を変えるような書き換えは「時期尚早」と語った。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、2%の物価目標の位置付けが見直しの焦点になると指摘。昨年のような急激な円安進行という金融緩和の副作用が起きないように、「新体制の下で、もう少し柔軟な金融政策に変わるような道筋を与えたい、それを政府主導でやりたいということだろう」とみている。
その上で、金融政策に柔軟性を持たせる見直しであっても、政府の介入を強めるものであり、「日銀の独立性を損なわせる」可能性があると危惧する。
--取材協力:、.
(13段落目に自民党の甘利前幹事長のインタビューでの発言を追加します)
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著者:伊藤純夫、藤岡徹
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