復習を重視しがちな「家庭学習」、深い理解に必要な「予習」の知られざる効果 カギは教師による「予習と授業」の連動設計

学校現場に「予習」が浸透していない「3つの要因」
「日本の子どもたちは、思考力を測るOECD(経済協力開発機構)生徒の学習到達度調査(PISA)や、文部科学省の全国学力・学習状況調査のB問題のような応用力を問われる問題に弱いですが、これは思考に使える知識が身に付いてないことの表れだと私は捉えています。こうした状況からも、丸暗記ではなく、深い理解を伴った知識の獲得を目指す必要があると思いますが、それには予習が重要だということがわかってきています」
そう語るのは、教授・学習心理学を専門とする篠ヶ谷圭太氏だ。篠ヶ谷氏は大学院時代から予習の研究を行っていたが、慶応大学の研究員時代に「家庭背景が子どもの学力に与える影響とそのプロセス」という調査研究(2012年刊行)に携わり、家庭学習における予習の重要性をいっそう感じたという。この調査研究で、親の学歴や家計収入と、子どもの学力との関係性を分析したところ、教育投資の差が子どもの学力の差を生むという問題が明らかになったのだ。
「塾や家庭教師などを利用してあらかじめ学んでおけば、学校の授業は当然理解でき、どんどん力がつきます。逆に塾や家庭教師を利用できず授業についていけなくなった子は、理解できない部分が蓄積されていく。この状況を食い止めるうえで、予習を積極的に取り入れ、授業に参加する段階での既有知識の差を少しでも埋めることが大事だと思いました」

日本大学経済学部教授
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は教授・学習心理学。認知心理学に基づいて、教育現場と協働しながら効果的な学習法や指導法を研究している。著書は『予習の科学 「深い理解」につなげる家庭学習』(図書文化)、共著に『新・動機づけ研究の最前線』『自己調整学習 理論と実践の新たな展開へ』(ともに北大路書房)など多数
(写真:本人提供)
人は頭の中にある知識を使いながら物事を自分なりに理解している。だから何かを学ぼうとしたとき、前もって関連する知識を持っておけば、その分、深く理解できる。「このように予習が大事だという情報処理メカニズムは、心理学ですでに明らかになっています」と篠ヶ谷氏は言う。
にもかかわらず、なぜ予習はこれまで学校現場であまり重視されてこなかったのか。篠ヶ谷氏はまず、教師の信念と、保護者の意識という2点を理由に挙げる。